新近江名所圖会 第137回 いにしえの志賀越みち―崇福寺跡から志賀峠へ―

 古代の都と近江を結ぶ道は逢坂山を越える道が主に使われましたが、そのほかにもいくつかの道筋がありました。その1つが現在の大津市坂本から滋賀里見世村を経由し、崇福寺(すうふくじ)前を通って志賀峠を越え、山中・北白川から京都七口の1つである荒神口に到るルートです。『続日本紀』によれば、弘仁6年(815)に嵯峨天皇は崇福寺に参拝し、梵釈寺で茶を喫して唐崎に行幸していることから、この志賀越みちを通ったと思われます。今回は滋賀里からこのルートをたどり、「志賀の大仏(おおぼとけ)」や大津宮に遷都した天智天皇の旧蹟である崇福寺跡、志賀峠などを訪ねてみましょう。
 京阪石坂線の滋賀里駅を出発して山手に向かいます。標識に従って八幡神社の正面の鳥居から右手に境内を見ながら住宅街を進み、国道バイパスを越えます。バイパスの側道を右手に行くと、大津市立埋蔵文化財調査センターがあります。大津市内の遺跡について知ることができますので、時間があれば立ち寄ってみましょう(土日・祭日休館)。
 しばらく行くと右手に千体地蔵堂があり、裏手にたくさんの石仏が安置されています。地蔵堂の右手を奥に進むと、岩屋不動尊の境内に桐畑古墳の石室が開口していて、見学することができます(新近江名所図会第1回)。地蔵堂からさらに進むと、やがて住宅地が終わり、右手山腹の竹藪のなかに百穴古墳群(新近江名所図会第22回)があります。山内に入るといくつかの古墳の石室が開口していて、霊気迫りくる多数の墳墓群に圧倒されます。

志賀の大仏(おおぼとけ)

志賀の大仏(おおぼとけ)

 百穴古墳群から谷川に沿って上流へ進むと、「志賀の大仏」がそっとたたずんでいて、その丸く優しい顔に心が和みます。13世紀頃に作られたと言われる高さ3m余の阿弥陀如来座像で、巨大な花崗岩を建てて一石彫りにしています。多くの道行く人々が平安を祈願したことでしょう。さらに登ると道が二股に分岐し、左手に進むと志賀越みち、右手に進むと崇福寺跡から比叡山根本中堂への山道になります。まず、崇福寺跡を訪ねてみましょう。

おススメPoint

金仙滝と石窟

金仙滝と石窟

 崇福寺跡は3つの尾根に分かれて堂宇跡が残されています。昭和3年と同13年の発掘調査で南尾根に「金堂跡・講堂跡」、中尾根に「小金堂跡・塔跡」、北尾根に「弥勒堂跡」とみられる堂宇が見つかっています。崇福寺は平安時代後期に記された『扶桑略記』によれば、天智天皇が近江に都を遷都した翌年の天智6年(668)に、夢で宮の乾(西北)方向の山中に霊地があり、とのお告げがあり、その地に寺院を創建したとされます。
 山道を右手に進んでまず北尾根に登ってみましょう。花崗岩の路頭した切り通しを抜けると、右手の谷に金仙滝と石窟を見ることができます。この石窟は天智天皇の夢枕に崇福寺を建てるお告げをした法師の住む洞窟といわれています。標識に従い山道から右手に入ると、切り開かれた尾根上に弥勒堂跡の礎石が並びます。建物は瓦積み基壇で3間5間の建物になり、建物の奥にも庭園風のいくつかの配石が見られます。

崇福寺塔跡

崇福寺塔跡

崇福寺講堂跡

崇福寺講堂跡

 もと来た小道を戻り山道から右手の小道を登ると、東西に切り開かれた尾根の山麓側に小金堂跡、その東側に塔跡があります。発掘調査では塔跡の基壇下から塔心礎が見つかっていて、心礎横に掘られた穴の中から舎利容器と荘厳具が発見されています。容器は金銅・銀・金の三重で、中には瑠璃壺に舎利として3個の水晶玉が納められ、荘厳具には無文銀銭や瑠璃玉などが入っていました。舎利容器は国宝に指定されていて、京都国立博物館で見学することができます。
 小金堂横から山道を谷に下り、やや危なげな木橋を渡り南尾根に登ります。山手側に金堂跡の基壇があり「崇福寺旧址」の立派な石碑が立っています。いくつかの苔むした礎石に古人の願いが伝わってきます。その前面には講堂跡など3棟の建物跡が見つかっていて、秋には周辺一帯が見事な紅葉で彩られます。この建物群は出土遺物や北・中尾根建物群との方位の違いから、延暦5年(786)に桓武天皇が天智天皇の追悼のために建立した梵釈寺跡と推定されています。

志賀越みち

志賀越みち

志賀峠

志賀峠

 いにしえへの想いを十分味わえたら、金堂に向かって左手の階段を下り志賀越みちの林道を進みます。途中には甘露な湧き水があり、馬頭観音像や磨崖仏などが佇んでいます。林道が終わると本格的な山道になります。平安貴族も通った山道の苦労に思いをはせ、谷を上り詰め左手の尾根道を進みます。花崗岩の石切り場を越え明るく開けると頂に着きます。ピークの道には比叡山ドライブウェーの下をくぐるトンネルがあり、少し趣は異なりますが、このあたりが志賀峠になるのでしょう。ここから先は健脚の方は谷沿いの古道をたどり、山中町を経由して京都北白川に下っていきます。

アクセス

【公共交通】京阪電鉄石坂線滋賀里駅下車滋賀峠まで徒歩約90分

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(濱 修)

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