調査員のおすすめの逸品 No.101 天下の「バッタモン」-北谷11号墳出土「鍬形石」-

 「バッタモン」と言う言葉をご存じですか? 「超安売り品」「正規ルートでない品」などを意味する隠語です。大阪では「パッチモン」とも言います。ようするに、ちょっと買うのをためらうような胡散臭い商品です。今回は、古代の「バッタモン」ではないかと考えられる遺物を紹介します。
 弥生時代の九州では、沖縄など南の島で採れた貝を材料にしてブレスレッドを作ります。身分を表し、まじない的な力を身に付けるためと言われています。やがて古墳時代になると、このブレスレッドを緑色の石(緑色凝灰岩と言います)を材料にして作るようになります。なぜ石で作るようになったのか? その理由として、貝よりも石の方が強度に優れていることや、緑色の石に特別な意味を見いだす中国の「玉文化」の影響などが言われています。いずれにしろ、この石材が豊富に産出し、古くから玉作りの技術を持っていた北陸地域が、独占的に石製ブレスレッドを生産するようになります。「北陸ブランド」と言ったところでしょうか。
 こうした石製ブレスレッドの中でも、「鍬形石」と呼ばれる不思議な形をしたものは、特に珍重され、近畿地方の大型の前方後円墳からたくさん出土しています。緑色の美しい石材を使って、最新の技術で丁寧かつ精巧に作られた「鍬形石」は、まさに王者の持ち物として扱われていたのです。滋賀県では、雪野山古墳や安土瓢箪山古墳など、地域を代表する前方後円墳から出土しています。

北谷滑石

滑石製鍬形石

 ところが、草津市の北谷11号墳という古墳は、中ぐらいの大きさの円墳(大型の前方後円墳という説もあります)にもかかわらず、5つも「鍬形石」が出土しています。これは、「たいそう偉い王様がいた!」と言うことになりそうですが、そのうちの2つが問題なのです。
 1つは、妙に青黒い色をしていて、どうも石材が上記の古墳から出土する「鍬形石」と違います。調べてみると、滑石というほかの大量生産品に多く使われる石材です。明らかに、「北陸ブランド」ではありません。

北谷未製品

鍬形石未製品

 もう1つ、妙にゴツゴツしてなめらかさに欠けた「鍬形石」があります。仕上げまで至っていない「未製品」と考えられます。石材は北陸ですが、「北陸ブランド」とは言い難いのです。
 つまり、北谷11号墳に葬られた王様は、2つも「バッタモン」を掴まされていたのです!
 それはともかく、去年(平成24年)の暮れ、草津市中沢にある中沢遺跡の川跡の中から、「鍬形石」が見つかったというニュースが流れました。古墳以外から「鍬形石」が出土することはとても珍しいことです。また、守山市の赤野井湾遺跡や弘前遺跡・下長遺跡などからは、同じ「北陸ブランド」の「石釧」と呼ばれるブレスレッドが出土しています。さらに、最近の研究によって、栗東市の辻遺跡などでは、緑色凝灰岩や滑石で玉作りを行っていたことも明らかにされています。こうしたことから、現在の草津・栗東・守山地域は、「北陸ブランド」と深い関係を持ち、一部、「下請け生産」を行っていた可能性も考えられています。
 ということは、北谷11号墳の王様こそが「下請け生産」の元締め?
 このように、謎が謎呼ぶ「バッタモン」事件。北谷11号墳出土の「鍬形石」は、滋賀県の歴史に燦然と異彩を放つ一品なのです。
 ネット通販で失敗したことや、新春バーゲンでサイズ違いを買ってしまったことはありませんか? 反省の意味ではありませんが、2月9~11日にイオンモール草津で、北谷11号墳や中沢遺跡の「鍬形石」、赤野井湾遺跡や弘前遺跡・上御殿遺跡の「石釧」などを展示します。「バッタモン」に出会わないためにも、古代の遺物を是非お見逃しのないように。

(細川修平)

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