調査員のおすすめの逸品 No.107 関津遺跡出土の角錐状石器

角錘状石器

角錘状石器

 今回ご紹介する角錐状石器は、田上山系北麓に瀬田川が接する地点、大津市関津1~3丁目に所在する関津遺跡の発掘調査で出土しました。この石器は、後期旧石器時代に使われたものですが、滋賀県内では初めて出土しました。
 角錐状石器とは、サヌカイトやチャート・黒曜石・凝灰岩・頁岩といった硬質の石材を素材として、一端もしくは両端を尖らせ、断面が台形または三角形を呈する石器です。大型のものは長さ10㎝前後、小型のものは長さ3㎝前後のものがあり、形状は細身で先端が鋭いものと、ずんくりとして先端が鈍いものとがあります。
 関津遺跡で出土した角錐状石器は、先端部が僅かに欠損していますがほぼ完形品で、風化も進んでいませんでした。石材はサヌカイトで、長さ7.04㎝・幅1.46㎝・厚さ0.75㎝・重さ8.4g、細身で鋭い先端をもち、丁寧に仕上げられています。
 角錐状石器は、九州地方から東北地方にかけて分布することが確認されていますが、特に、東九州から瀬戸内海沿岸にかけての地域で、サヌカイトや安山岩の原産地遺跡を中心に、一遺跡からまとまって出土する傾向にあることが判っています。一方、近畿地方以東では、東海地方から南関東地方にかけての太平洋沿岸地帯を中心に分布していますが、一遺跡からまとまって出土することがなく、出土遺跡数そのものも少ない傾向にあります。近畿地方では、大阪府と兵庫県で比較的多くの遺跡が確認されていて、なかでも兵庫県板井寺ヶ谷遺跡ではAT(姶良丹沢火山灰)降灰後の地層から良好な状態で検出されています。
 角錐状石器の制作方法や形態は、西日本ではつくりが丁寧であるのに対して、東日本ではつくりが雑になって小型化するなどの傾向にあることが判っています。そして、九州地方で出土する初源期の角錐状石器に類似した石器が朝鮮半島のスヤンゲ遺跡などで出土していることから、AT降灰後に大陸から九州に伝わり、瀬戸内海沿岸地域を通って太平洋岸沿いに東日本へ伝播した可能性が高いと考えられています。
 以上のように、角錐状石器はこれまでの調査研究によって、後期旧石器のなかでもAT降灰後に出現して細石器出現以前に消滅することが層位的に確認されるなど、使用された時間幅が後期旧石器時代後期前半の比較的限定された時期(約2万2千年~1万5千年前)であることが判っています。このことから、角錐状石器は、ナイフ形石器のようにAT降灰以前から細石器出現期まで長期間使用された石器とは違い、単体の出土であっても時期を特定し得る石器であることが知られています。
 関津遺跡で出土した角錐状石器は1点のみですが、その出土状況や遺跡の立地・地域性などから、関津遺跡が立地する田上山麓一帯に広がる丘陵地帯は、約2万2千年~1万5千年前には確実に人が活動していたこと、さらにはその痕跡が良好な状態で残されている可能性が高いことが明らかになったと言えます。この角錐状石器は、滋賀県の後期旧石器時代を考えるうえで重要な逸品なのです。                          

(藤崎高志)

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