調査員のおすすめの逸品 No.109 平安時代の滋賀県の名産品-春日北遺跡出土緑釉陶器-

 滋賀県の名産品といえば何を思い浮かべますか? すぐに頭に浮かぶのは、狸の置物で有名な信楽焼ではないでしょうか。しかし、この信楽焼が名産品として名を馳せるのは江戸時代以降で、狸にいたっては昭和期になってから有名になったといわれています。今回は、信楽焼以前の知る人ぞ知る滋賀県の焼物の名産品について紹介したいと思います。

春日北遺跡2号窯出土緑釉陶器(素地)

春日北遺跡2号窯出土緑釉陶器(素地)高台の端部に段が無く、内外面ミガキが確認できる。

 それは緑釉陶器(りょくゆうとうき)です。緑釉陶器は唐三彩・奈良三彩の系譜を引く焼物で、9世紀頃に東海地方(猿投(さなげ))と当時の都である平安京近郊で生産が開始されたといわれています。当時とても貴重で高価だった中国産青磁を模倣したもので、緑釉を掛けることにより色調もそっくりに仕上げています。当初は東海地方と平安京近郊が2大生産地でしたが、10世紀後半代になると、平安京で出土する緑釉陶器の7割以上が滋賀県(近江)産で占められるようになることがわかっています。つまり、平安時代の一時期、滋賀県産緑釉陶器は最大の消費地でのシェアの大部分を占めていたわけで、まさに名産の名にふさわしい品といえます。しかし、いわゆる滋賀県産緑釉陶器は、消費地の状況はよく知られていましたが、生産地の状況はあまりよくわかっていませんでした。
 数年前までは、滋賀県内で緑釉陶器の生産を行っていた窯跡は10か所程度が知られていました。その中で発掘調査が行われていたのは2基で、詳細が判明していたのは日野町の県指定史跡作谷(つくりや)窯跡の1基にすぎませんでした。そこに新たな資料を提供した発掘調査が、平成21年(2009)度に実施されました。それが春日北遺跡です。

春日北遺跡2号窯の主な出土品

春日北遺跡2号窯の主な出土品

 春日北遺跡の発掘調査では6基の窯が発見され、滋賀県産で最古段階と考えられる緑釉陶器がみつかりました。これまで、滋賀県産緑釉陶器は10世紀前半代のものが最も古いといわれていましたが、それを遡る10世紀初頭の窯がみつかったのです、滋賀県産緑釉陶器の特徴は、端部に段を持つ貼り付け高台があること、濃緑色の釉が施釉されること、そして「ミガキ」という器面に光沢感を出す処理が省略されていることだといわれていました。しかし、最古段階の窯である春日北遺跡2号窯の製品は、高台端部の段が無く、ミガキが全面になされていました。ただし、これらは製品といっても「素地」と呼ばれる一次焼成品で、釉薬は掛けられていませんでした。ですから、釉の色調はわかりません。そして、この2号窯では緑釉陶器と一緒に灰釉陶器も焼かれていて、緑釉陶器の特徴と合わせて、東海地方との関係が非常に濃いことが明らかになりました。
 このように、発掘調査による新たな発見で、従来の定説の変更が必要となることもあります。春日北遺跡2号窯出土の緑釉陶器はその象徴であり、平安時代の滋賀県の名産品のはしりともいえる逸品といえます。

参考文献:滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会2012『春日北遺跡』

(堀 真人)

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