調査員のおすすめの逸品 No.114 レトロ・レトロの体験フェスタで活躍中!-松原内湖遺跡出土の木製短甲復元品-

木製短甲出土状況

木製短甲出土状況

 あれは約30年前、私がまだ紅顔の美少年、発掘調査の仕事に従事して2年目のことです。担当していたのは、彦根市の松原内湖遺跡。現在の東北部浄化センター建設に伴う発掘調査でした。ある日、作業員さんの1人が、「ウィスキーの樽が出た!」と私を呼びました。「樽???」と疑問に思いつつも、そこは人一倍お酒の好きな私のこと、「こんなめでたい遺物はない!」と、その声の方へ走っていきました。「???何だ?」そこには、確かに樽にも見える不思議な木製品が横たわっていました。
 色々と観察すれば、剣道の「胴」のようにも見えてきます。首が当たる部分には抉りが入れられ、腕が当たる部分もちょうど良いカーブに加工されています。また、裾と思われる部分は、少し外側に反っています。用材はカエデ。外側には黒うるしが塗られ、縦横に小穴が開けられ、革ひもを通して模様としていたようです。こうした特徴から、これは樽ではなく、木製の短甲と考えました。
 短甲とは甲冑の一種で、腰から上の胴や胸・背中などを保護する武具を指します。古墳時代では最も一般的な武具で、全国の古墳から多く見つかっています。しかし、それらはいずれも鉄製品で、弥生時代の事例を含めても、当時、木製の短甲は全国でも数例しか出土していませんでした。しかも、数少ない類例の1つである静岡県伊庭遺跡例は、複雑な模様が彫刻され、実用品というよりも祭祀用と考えられるもので、もう1つの奈良県坪井遺跡例は、鉄製の短甲を木で模倣したと考えられるものでした。実用品と考えられる木製短甲の実像を示すという意味からも、松原内湖遺跡から出土した短甲は、貴重な事例となった訳です。
保存処理済の木製短甲

保存処理済の木製短甲

 さて、この短甲ですが、上で「首が当たる部分」「腕が当たる部分」と説明しましたが、実は、この出土品を前胴(お腹を護る部分)と考えるか、後胴(背中を護る部分)と考えるかが、大きな問題となりました。前胴とするには、高さ47㎝で首の抉りが小さいことなど、鉄製短甲の常識を超える形状です。よほどのノッポさんでもない限り、動きが妨げられると考えられました。では、後胴とすれば、高さは問題なさそうですが、今度は後肩付近があまりにも無防備すぎるのです。
 そんな時は、復元品を作ってしまえ! 手先の器用な調査員の一人が、その後、復元品を作成しました。これによって、あれこれと装着を繰り返してみた結果、身長150㎝ぐらいなら、前胴としてもほとんど動きの妨げとならないこと。逆に後胴とした方が、腰の動きなどが苦しくなる可能性があることなどがわかってきました。今ではこれを前胴と決定し、木製短甲には木製短甲独自の形状があったと考えるようになりました。

復元した木製短甲

復元した木製短甲

 そこで、本日のおススメの逸品。松原内湖遺跡出土の木製短甲ではなく、その復元品です。何を隠そう、その時の復元品こそが、現在開催中の「レトロ・レトロの体験フェスタ2013」での、「なりきり古代人コーナー」に置かれている「木製短甲」なのです。体験用に改良・補修は加えてありますが、松原内湖遺跡出土品の復元品として極めて精巧に作られていて、さらに、私の甲冑研究の進展に寄与した、由緒正しい短甲なのです。こんなにすごい由緒を持つ短甲の復元品を身に着ける機会は、そうめったにあるものではないでしょう。
 今ではすっかり樽のような体形になった私ですが、子供たちがこの復元短甲を身に着けている姿を見れば、若かりし、スマートな頃を思い出し、もう一度初心に戻って、発掘調査に従事しようと、やる気が燃えてきます。
と言うことで、皆様、「レトロ・レトロの体験フェスタ2013」にお越しいただき、木製短甲の装着を体験してみてください。そして、暑さに負けず、暑さをはねかえし、今年の夏をのりきってください。

(細川修平)

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