調査員のおすすめの逸品 No.116 あまり存在を知られていない逸品 -上出B遺跡の???-

 遺跡の調査に携わる者なら、誰しも自らが調査する遺跡で目の前に現れた遺物や遺構に感激したり、興奮したことがあると思います。私も約25年間滋賀県内の遺跡の調査に携わり、いろいろな遺構や遺物と出会ってきました。今回は、いい遺物に出会ったにもかかわらず、報告のしかたがまずく、ほとんどの人がその存在すら知らない遺物のお話をしたいと思います。

泥の中から姿を現したガラス玉

泥の中から姿を現したガラス玉

 平成8年の夏、私は蒲生郡安土町(現在の近江八幡市安土町)石寺にある上出B遺跡の発掘調査を担当していました。上出B遺跡は、第78回で将棋駒のお話で触れた観音寺城下町遺跡の南西に隣接する遺跡です。ですので、調査に従事するスタッフも同じ面々で、近所に住む楽しい作業員の方々や、仏教大学・花園大学の学生さん達と一緒に、暑い夏の盛りに調査を進めていました。
 調査を始めてすぐのある日、水がジクジクと湧いてくる低湿地の堆積層の上から掘られた溝と思われる遺構を掘っていました。低湿地の堆積物の上から掘られた遺構ですので、当然この溝も内部に堆積している粘土を掘ると水がじわじわと湧いてきます。掘っていると粘土と水が混じり合って、さながら泥遊びをしているようなひどい状態でした。そんなひどい状況にもかかわらず、掘り進むと須恵器や土師器がかなりたくさん出てきます。遺物が出土すると楽しくなり、皆の作業もはかどりますが、そんな作業の手が止まるような遺物が泥の中から現われました。
ガラス玉A面

ガラス玉A面

ガラス玉B面

ガラス玉B面

 作業員さんの1人が泥の中でキラッと光る半球形のものを見つけたのです。泥を落としてきれいにしてみると、群青色に輝いています。初めはよくわからなかったのですが、写真を撮影し、取り上げて間近で見てみると、どうやらガラスのようです。このガラス製品は厚さ約1.2㎝、短径2.6㎝・長径3.4㎝ほどの楕円形のものだったと思われますが、紐を通す穴が穿たれている部分で、半分に折れて欠損しています。全体は群青色のきれいなガラスなのですが、丸くなった先端部の裏と表には、直径6㎜ほどの緑青色の別のガラスが円形に鋳込まれています。この鋳込まれたガラスは、片方が鋳込まれたままの丸く盛り上がった状態なのですが、もう一方は鋳込まれたガラスの表面を磨き取って平滑に仕上げています。一緒に出てきた土器から、このガラス製品は6世紀中頃の古墳時代のものと思われますが、一体どういうものなのでしょうか。
割口から見た写真(上がA面)

割口から見た写真(上がA面)

 ベースになるガラスに違う色のガラスを付けているという視点で見ると、似た遺物にはトンボ玉があります。トンボ玉とは、『国史大事典』(吉川弘文館1979~1997)によると「ガラスの丸玉の表面に異なった色ガラスを象嵌(ぞうがん)して飾ったもの。ことに小さな丸い文様が特徴的で、トンボの複眼に似ているところからそうよばれたものとみられる」とあります。この遺物は丸玉ではないところが少しこの定義とは違うようですが、ガラスの表面に異なったガラスを象嵌するという点を重視すると、トンボ玉の一種と言うことができそうです。
B面の象嵌されたガラスの様子

B面の象嵌されたガラスの様子

 いずれにせよ、あまり出土する遺物ではなく、珍品であることは間違いありません。これは報告書ではカラー写真を掲載して大きく報告しないと・・・と思っていたこところ、私は違う部署へ異動してしまい、報告書は別の職員がとりまとめました。とりあえず原稿は書いてくれということで執筆しましたが、ほかの編集はおまかせしました。ところが、仕上がってきた報告書を見てびっくり!この遺物に関しては実測図と私の書いた本文の記述のみが掲載されていて、遺物写真はモノクロ写真もましてやカラー写真もありません。「え~何で!」そしてこの遺物は存在を消したかのように、収蔵庫の奥深くに収納されてしまいました。そんな遺物にスポットライトを当てたくて、今回は恥を忍んでご紹介した次第です。
 まさに打合せ不足が招いた悲劇。皆さん、仕事はやっぱりコミュニケーションが一番ですね。それから、このような遺物を御存知の方がおられましたら、ご一報いただけますと幸いです。

(岩橋隆浩)

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