調査員のおすすめの逸品 No.127 この一冊-小林行雄著『日本考古学概説』-

『日本考古学概説』

『日本考古学概説』

  全国各地から埋蔵文化財の発掘調査のニュースが、毎日のように新聞紙上に掲載されています。日本考古学は明治期以降、年ごとに著しい成果を上げてきました。
 今から約60年前の昭和26年(1951)12月30日に、1冊の専門図書が刊行されました。小林行雄著『日本考古学概説』(東京創元社)です。四六版で320頁あります。収められている内容は当時の日本考古学の学問的成果を最大限に盛り込んでいて、なおかつ、図版は精巧で文章は詳細にわかりやすく記述されています。今も重要な専門書として考古学の基本図書といえます。
 小林先生(1911~1989)は昭和12年に、九州地方から近畿地方に分布する弥生土器の中に共通する特徴のあるものを見いだして「遠賀川式土器」と名付けられ、山内清男先生・梅原末治先生らと縄文時代・弥生時代・古墳時代という時代区分を明らかにされています。また、三角縁神獣鏡を卑弥呼が魏から贈られた鏡と考え、全国各地から出土する同范鏡研究から邪馬台国畿内説を出されました。主な著作に『古墳の話』(1959、岩波新書) ・『古代の技術』(1962、塙選書)・『古鏡』(1965、学生社)、共編『図説考古学事典』(1951、東京創元社)などがあり、多大な業績は日本古代史・考古学研究に大きな影響を与えておられます。
 『日本考古学概説』の初版本が出版された昭和26年は、私が生まれた年です。そして、この本に出会ったのはこの道に進もうと思った昭和46年の春、1回生の時でした。先輩に勧められ始めて購入した専門書です。購入した店は、京都の河原町二条を上がったところにあった、考古学の専門書と報告書が所狭しと並ぶ古本屋でした。それ以来、時間があれば頁を開いていたのですが、高校までの日本史では習わない専門用語が並び、歴史の時間軸さえもままならない考古学徒といえない初級者にとっては大変難解な本でしたが、肌身離さず持っていました。ベルトで縛った数冊の本を持っているだけでなぜか勉強している気になっていたのでしょう。雨の日は、「身体は濡れても本は濡らすな!」と先輩から教わり、懐に入れていたことを覚えています。
 考古学は発掘現場での実践が大切と、1回生の初夏、京都府教育委員会の発掘調査に参加させてもらいました。当時の発掘調査は宿泊が多く、夕食後は調査主任をされていた堤圭三郎さんや若手の高橋美久ニさん(お二方とも鬼籍に入られました)と京都の各大学の3・4回生や大学院の先輩諸氏が、般若湯をいただきながら考古学の議論を交わされていました。私は部屋の隅で何と高いレベルと感じながら聞いていました。日焼けを競った夏が過ぎたころになると、少し土の色の違いがわかるような気になってきましたが、『日本考古学概説』に記述されている遺構や遺物の名称を覚えられず、また、技師さんや諸先輩の議論の中に入っていくこともできませんでした。
 その後も奈良県や滋賀県での発掘調査に参加させていただき、3・4回生の頃だったでしょうか、技師さんと話をさせてもらえるようになりました。般若湯も覚えました。すると『日本考古学概説』も手になじんできましたが、依然として難解でした。
 昭和50年に当協会へ採用され、昭和56年に滋賀県教育委員会に技師として奉職し、日々、現場での発掘調査と報告書作成が続きました。その後、出身大学の通信教育講座の講師を担当させていただく機会がありましたが、その時のテキストはもちろん『日本考古学概説』でした。
 まさに、私にとって『日本考古学概説』は考古学を学んだ教科書です。今も本棚の真ん中に鎮座しています。

(葛野 泰樹)

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