調査員のおすすめの逸品 No.130 失われた景観を記録した絵図 -彦根築城以前の景観を描いた「彦根界隈絵図」-

 景観(地形)は、地震・水害といった自然要因や、開発・改修といった人為的な要因など、さまざまな原因によって常に変化していきます。その時々の姿を記録することで、後の世に貴重な資料を伝えることになります。

「彦根界隈絵図」

(1)「彦根界隈絵図」

 今回は、失われた景観を描いた絵図を紹介します。それは、滋賀県立安土城考古博物館が所蔵する「彦根界隈絵図」という絵図です。この絵図は江戸時代に作成されたもので、彦根城築城以前の景観を描いたと考えられます。よく似た絵図が彦根市図書館(『彦根御山絵図』)や滋賀県立図書館(『彦根往古図』)、滋賀大学経済学部附属図書館(『彦根古図』)に所蔵されているので、いくつも写本が存在したようです。『彦根界隈絵図』は、おおむね永禄年間(1558~1570年)頃の情報をもとに描いていますが、所々に江戸時代―井伊氏の時代―の情報も記されています。
 絵図をみて、今の景観と大きく異なるところは芹川と松原内湖です。現在の芹川は彦根城下町の南側を流れています。一方、絵図では分岐して彦根山の東側に北流、南側に南流がそれぞれ描かれ、北流はさらに二股になって河口部で合流していることがわかります。また、彦根山の北側は芹川北流の河口と松原内湖がつながっており、内湖の範囲が今よりも広く描かれています。
 このように、絵図にしめされた景観は、今と比べてあまりにも異なるので、「根拠のない創作」と思われるかもしれません。そこで、他の資料によって真偽のほどを検証してみました。

(2) 国土基本図

 (2)は、2500分の1国土基本図に記された等高線を赤色でなぞったものです(国土基本図については「調査員おすすめの逸品No.92」を参照してください)。よくみると、不自然な窪みが市街地を南北に縦断していることがわかります。ひとつは1950年代に埋め立てられた外堀の跡ですが、この堀も芹川旧河道や犀ヶ渕(淵)とよばれる湧水を利用して築かれたことがわかります。
 このことから「彦根界隈絵図」に描かれた情報は、ある程度信頼できるものといえるでしょう。今後、類似資料と比較検討を重ね、描かれた情報を詳しく調べていけば、彦根城築城以前の彦根のありさまを知る重要な手がかりになると思います。

(神保忠宏)

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