調査員のおすすめの逸品 No.91 守山市赤野井湾遺跡の木製品

 平成5年(1993)4月、財団法人滋賀県文化財保護協会に就職することになり、最初に私が配属されたのは滋賀県立安土城考古博物館内にある調査整理課です。そこでは、琵琶湖総合開発事業に伴って実施された発掘調査の整理作業が行われていて、かの粟津湖底遺跡の出土遺物などが扱われていました。しかし、当時の私にはそれら滋賀県内の遺跡についての知識はほとんど無いに等しく、右も左もわからない、といった状態でした。そんな中で、なぜか写真を担当することになった経緯は、以前このコーナーで紹介させていただきました(第60回)が、今回はもう一つ、私に任された業務との出会いをご紹介したいと思います。

赤野井湾遺跡の鍬

赤野井湾遺跡の鍬

 それは、守山市赤野井湾遺跡の木製品群の整理調査です。ちなみに、木で作られた出土遺物を「木器(もっき)」と呼ぶことがあります。土で作った容「器」だから土器、石で作った利「器」(=刃物)だから石器、なのですが、これに対して一般的に「木器」という場合、木で作ったもの全体を指すことが多く、厳密には用語として正確ではありません。そこで、個人的には「木製品」と呼称しています。
 さて、就職して最初の課会議で、「じゃあ君はアカノイのモッキをやってもらうから」と指示がありました。しかし、「アカノイって何? モッキ? 木器でいいんだよな?」など、頭の中には疑問符だらけで、これから何をどうすればいいのかもさっぱりわかりません。そもそも、これまでまともに木製品を見たことも触ったことも無いのです。正直なところ、最初の1カ月は途方に暮れていました。
 そんな中、光明もありました。ちょうどその頃、奈良国立文化財研究所(現独立行政法人奈良文化財研究所)から『木器集成図録 近畿原始篇』が刊行されました。これは、木製品をどう見るべきかという基礎文献であり、最高の参考書でした。また、5年間という整理調査の工程だったため、各地の研究会に出かけていろいろな方にご教示いただいたり、勉強する時間を取ったりすることができました。
赤野井湾遺跡の調査報告書

赤野井湾遺跡の調査報告書

 散々苦労した末に、5年後にはどうにか報告書が形になりました。もちろん、今から思えば反省点ばかりが目につきます。たとえば、写真撮影が保存処理との関係から撮影時間があまり取れなかったり、調査区ごとの報告にこだわったために、同じ器種でも離れた場所に図面が掲載されることになってしまったり…。もっと遺物の情報を正しく残し、見やすくすることができたのに、と思います。
 その後も、滋賀県では木製品がたくさん出土しています。同じ守山市の赤野井浜遺跡や草津市柳遺跡・長浜市塩津港遺跡・東近江市蛭子田遺跡など貴重な発見が続いていて、これらを調査・研究・保存・活用するというノウハウが、当協会に蓄積されています。けれど、そういった新資料を見るときにも、いつも私の中には赤野井湾遺跡の木製品群があり、「赤野井湾と比べて~」という判断になってしまいます。「三つ子の魂百まで」といいますが、私の「木製品魂」は、赤野井湾遺跡が作ってくれたものなのです。

(阿刀弘史)

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