調査員のオススメの逸品 第244回 万能の塗料であり接着剤である“漆”

漆は、古くから食器や装飾品や調度品、建物など、様々なものに使われています。熱や湿気、酸やアルカリにも強く、腐敗防止、防虫の効果がある特性から素材の木製品等を長持ちさせることができるため、広い分野で利用されてきました。また、古くは漆の持つ強い「かぶれる」という現象が、神が宿るという信仰を生んだことも考えられます。

具体的な考古資料としては、米原市入江内湖遺跡出土の縄文時代前期の「漆塗り椀」(調査員オススメの逸品第37回)、守山市金森西遺跡出土の縄文時代後期の「漆塗り櫛」(調査員オススメの逸品第182回)を紹介しています。

ところが、現在の私たちの生活の中では、生活様式の変化や安価で簡単に製作できることからプラスチックや化学塗料などの化学製品が主流になり、漆を使ったものは特別で高価なもので、あまり身近なものでなくなりつつあります。輪島塗や越前漆器などの伝統技術、仏壇、国宝や重要文化財の修理や修復などといった特別なものでしかお目にかからなくなっています。その背景には、日本で使用されている漆の約90%以上が中国産で、日本産の漆は希少となっていることや、漆を採取する漆掻き職人の減少、道具の供給の難しさなども関わっているようです。

漆はウルシ科のウルシノキなど(樹齢10~15年)から採集された樹液を加工して塗料や接着剤として利用されます。漆は、精製方法によって、採取された樹液(原料生漆)から木の皮などの混雑物を濾し取ったもの(生漆)、次に徐々に水分を除き、乾燥度、肉持ち、光沢、透明度など目的に応じて精製加工したもの(透漆)、この透漆に顔料を練りこんだ色漆を作ります。さらに、鉄粉や水酸化鉄を混入させ、黒色に変化させたものが黒漆になります。この方法は、現在の精製技術ですが、縄文時代の鮮やかな色を放っている漆製品を目の当たりにすると、すでに縄文時代からこれに近い精製技術が確立していたと思われます。

遺跡から出土する漆製品を見てみると、大きく赤漆と黒漆があり、この色の違いは、時代とともに変化していることが判ります。縄文時代では、漆の色使いは赤漆が主流で、特別な土器や装身具、弓などで使用されています。北海道・北陸・関東などの東日本に多く分布します。また、すでにこの段階で、形を整える下地塗りが行われています。ちなみに、福井県若狭町の鳥浜貝塚で出土した自然木が、約1万2600年前(縄文時代草創期)の世界最古のウルシとされています。

弥生時代になると東北や関東ではその使用が激減しますが、北部九州を中心とした西日本で多く使われます。前期は赤漆と黒漆の塗り分けがあり、後期になると黒漆が主流となっています。

さらに古墳時代は黒漆が多く使われ、黒色の美しさやその神々しさに目を引かれます。古墳時代の終わり頃には、麻布を漆で貼り重ねて作られた「侠佇棺」も登場します。

古代以降には、漆と他の素材を組み合わせた技術が加わります。漆器の表面に漆で絵や文様、文字などを描き、そこへ金や銀などの金属粉を蒔く「蒔絵」、夜光貝などを埋め込んで文様を描く「螺鈿」などの美術工芸品も登場します。戦国時代の金箔瓦でも金箔を貼る接着剤として利用されています。

このような漆の特性を利用した文化は、世界に誇る日本の伝統文化として、縄文時代から継承されてきており、私たちはもっと身近に感じられるものに戻していかなければなりませんし、貴重な文化として将来へ継承していかなければなりません。そんな意味で、私のオススメの逸品として“漆”を取り上げてみました。

吉田秀則
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