調査員オススメの逸品 第184回 近畿地方最古のムギ?-滋賀県東近江市下羽田遺跡-

中村健二 逸品図 作業状況

縄文時代晩期の建物跡の調査風景

中村健二 逸品図 どんぐり&ムギ出土状況

炭化したドングリとムギが出土した小穴

 日本列島に稲作や畑作が伝わったのはいつか。昔から多くの議論がすすめられ、縄文時代に遡るとされ、多くの証拠が提出されてきました。こうした中、レプリカ法と呼ばれる土器作りの際、土器の器面に付着した穀物の痕跡にシリコン樹脂など流し込み転写し、その転写したもの(レプリカ)を顕微鏡で覗いて穀物や種子などの種類を同定する方法による研究が多くの成果をあげています。こうした研究は、すでに失われた穀物を圧痕から復元できると共に、圧痕の付着した土器の形から詳細な時代がわかります。下羽田遺跡周辺の東近江市域では、2,400年前から2,500前頃の縄文時代晩期と呼ばれる時代にはイネ、アワ、キビなどの農作物があったことがわかっています。しかし、西アジアを起源とするパンの原材料になるムギ類についてはこの地域でいつ出現するかよくわかっていませんでした。
 

中村健二 逸品図 どんぐり

炭化したドングリ

中村健二 逸品図 ムギ

炭化したムギ

 平成22年度の下羽田遺跡の発掘調査では、ちょうど縄文時代晩期の集落跡が発掘されました。住居と考えられる建物跡や墓跡などがあり、その中の一つの小穴から炭化した材やドングリと共にムギ類が1点出土しました。その小穴は径約0.55 m、深さ約0.9mと小さく、土器の出土がなかったため、時代の確定はできませんでしたが、周辺の遺構から縄文時代晩期の土器が出土したことなどから、この時期のものと推定できます。発掘調査の際には、炭化した材とドングリしかわからなかったのですが、もしかしてはイネがあるのではと思い、土の水洗いを行いました。その際出土した種子のようなものを専門家に見てもらうと、ムギ類が1点含まれており、それと同時に一緒に出土した炭化材を放射性炭素年代測定にかけると4190±30年BPを示しており、縄文時代中期の終わり頃に相当することがわかりました。
 「なんと縄文時代中期、近畿地方最古のムギ類か」と思いましたが、炭化材には古い時代のものが再利用等される可能性があることから、発掘調査報告書では、周辺の遺構の状況を優先して縄文時代晩期のものと結論づけました。
 縄文時代のムギ類は全国各地で出土していましたが、近年、それらのムギ類を直接放射性炭素年代測定すると実は弥生時代以降の年代のものであることが多く、近畿地方などでは、古くても縄文時代でも終わりの晩期までしか遡らない可能性が指摘されています。こうした研究成果が正しいとすれば、下羽田遺跡で見つかったムギ類は近畿地方最古級となります。この年代を確実にするには、直接、ムギ類を放射性炭素年代測定にかければ良いのですが、仮に最古のものでも、測定にかければこの世から消えてなくなります。
 このムギ類の年代は未来の考古学者や科学者が、壊すことなく年代を明らかにする方法を開発するまで、待つしかありません。未来の考古学者・科学者への贈り物として・・・・。

(中村 健二)

◆詳しくはこちらの報告書で…

県教委・県協会『県営水質保全対策事業(白鳥川中流域1期地区)に伴う発掘調査報告書 下羽田遺跡』2016

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