調査員オススメの逸品 第203回 挽いていたものは何? ―長浜城遺跡出土の巨大石臼―

写真1 見つかった長浜町の堀石垣

写真1 見つかった長浜町の堀石垣

 長浜城は、羽柴秀吉により天正2年(1574)に築城された城としてよく知られているものの、天正13年におきた大地震によってその多くが崩れたこともあり、実態はよくわかっていません。長浜城遺跡は、天守があったと考えられる小山を中心とし、その範囲は、JR北陸線の長浜駅も含めた広範囲にわたっています。なお、現在は小山の北西に復興天守が建てられ、その中は長浜城歴史博物館として公開されています。
 当協会では、平成27年度から28年度にかけて、長浜駅東地区市街地再開発組合と長浜市教育委員会からの依頼を受け、この長浜城遺跡の範囲内において発掘調査を行い、私は担当者の一人としてこの調査に参加しました。調査地点は、長浜駅東口正面の旧平和堂長浜店があった区画で、新たな大規模商業店舗建設事業に伴うものです。ただし、旧平和堂長浜店があった部分は、建物を支える基礎杭が地中深くまで打ち込まれていて、遺跡は無くなっていました。ですから、調査はその周辺部分において旧平和堂長浜店の解体工事に伴って断続的に行い、調査区は小規模のものを10箇所設定しました。残念ながら長浜城に直接かかわる遺構・遺物は見つかりませんでしたが、各時代の様々な成果が上がりました。今回紹介する巨大な石臼は、調査区のうちの1つである第3調査区から出土しました。
 この第3調査区は開発区画の南東に設定したもので、ここからは石垣が見つかりました(写真1)。使われている石材に方形に加工されているものが多いことや染付磁器が出土したことから、この石垣は江戸時代に築かれたものと考えられます。また、江戸時代の絵図から、長浜城の外堀が大川と合流する地点の石垣に比定できました。すなわち、長浜城の堀を踏襲した近世長浜町の町割の堀が見つかったのであり、近世長浜町の堀石垣を確認した初の事例となりました。石臼は、石垣上面からその上の盛土にかけての地層から、表土掘削の際に出土しました。

写真2 巨大石臼

写真2 巨大石臼

写真3 巨大石臼の裏面

写真3 巨大石臼の裏面

図1 長浜城遺跡出土の巨大石臼

図1 長浜城遺跡出土の巨大石臼


 石臼はほぼ完全な形の上臼です(写真2・3、図1)。直径50㎝・高さ25㎝を測り、素材は花崗岩です。上面には高さ約4㎝の縁を持ち、中心より約10㎝ずれた位置にもの入れとなる直径約7㎝の貫通孔を垂直にあけています。側面には、四方に挽き手を差し込む穴を水平に掘り込んでいます。底面にはもの入れに付随して巴形にものくばりを掘り込むほか、中心に直径約7㎝の軸受が掘り込まれています。また、浅い目が8分画5溝ないし6溝で時計回りに刻まれています。この石臼の年代は、堀石垣の年代も合わせて検討すると、江戸時代中期以降とひとまずは考えられます。
 加藤達夫氏の集成(当協会『紀要』第29号(2016年3月刊行)所収)によると、滋賀県内の遺跡から出土した石臼(茶臼を含む)の報告事例は、54遺跡199点(うち茶臼は33点)だそうです。年代は、室町時代から明治期にかけてのものがありますが、そのほとんどは室町時代から安土桃山時代にかけてのものです。ただし、この集成では大きさについては触れていませんので、この石臼のサイズがどのように位置づけできるのかは今後の研究をまちたいと思います。
 しかし、これまでに彦根市佐和山城跡における発掘調査などで石臼が出土した経験からしますと、この石臼のサイズ(直径50㎝・高さ25㎝)はかなり大きいと言えます。また、あまりに重くて重量は計測できていないのですが、体積が約42,000㎤(25㎝(底面の半径)×25㎝(同)×3.14×21㎝(本体の高さ)+α(縁部分など))であることから、それに花崗岩の比重2.65を乗じると、約111.3㎏と推測されます。大人の男性2人でも運べず、移動する時には適当な大きさに切断したコンパネ(ベニヤ板)の上に載せて、4人がかりで運ぶ必要がありました。当然、石臼として使うにも、かなりの力が必要となります。挽き手の穴が四方にあることから、4人がかりで動かしたと考えられますが、あるいは堀を流れる水を使った動力で動かしていたのかもしれません。また、出土層位を考えますと、製作・使用時期については、明治期である可能性も考えられます。
 いずれにせよ、この石臼を使って挽いていたものは何だったのか気になるところですが、今のところそれを推測できる材料がありません。大きさ・重さからすれば、一気にかつ大量に製粉することができそうです。近世・近代の長浜町において、粉を商いする店などで使われていたものなのでしょう。

(小島孝修)

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