調査員オススメの逸品 第206回 白手袋と懐中時計

 テレビ番組で美術品を取り出す場面では、これ見よがしに白手袋が使われています。美術品に触れる際は、手袋をするのがマナーと思っている方も多いようです。しかし実際の博物館の現場では、学芸員が白手袋を使うケースは、実はあまり多くありません。
 モノ(「文化財」・「資料」・「作品」などいろいろな呼び方がありますが、私にはこの表現が一番しっくりきます)を扱うときの大原則は、それを「壊したり傷つけたりしないこと」です。白手袋は、モノに人間の脂や指紋・汚れを付けないためには有効ですが、素手の時よりも扱いづらく、落としたり引っかけたりして破損するリスクが高まります。脂や汚れは、事前に手を洗っておけば済むことなので、しっかりと取り扱うために、手袋は用いないことが多いのです。
 手の脂より、はるかに注意しなければならなのが、身につけた金属類が触れてモノを傷つける場合です。そのため学芸員は、モノを触る際には装飾品を全てはずします(ネクタイは先端をシャツの中に入れるなどします)。アクセサリー類など論外で、普段も仕事の際には身につけませんが、腕時計だけはそうもいかず、そのつどはずすことになります。テレビ番組で、白手袋をつけて仰々しく美術品を触る人が、腕時計をつけたままにしているのを見つけると、「わかってないな~」と苦笑してしまいます。

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使わないけれど常に持っている白手袋と、愛用の懐中時計・腕時計

 かく言う私自身、学芸員になりたての頃は、心がけていてもつい腕時計をはずし忘れてしまい、そのたび「まだまだ半人前だ…」と落ち込んだものでした。しかし「慣れ」とはありがたいもので、何年も仕事をしているうちにその習慣が身に染みつき、モノをみると条件反射的に腕時計をはずすようになりました。めでたしめでたし…の反面で、無意識にはずしてしまうため、作業が終わったあとに腕時計をどこに置いたかわからなくなり、紛失するという問題が発生します。
 腕時計を買うのも、度重なるとけっこうな出費です。そこで、予定外にモノを触る機会が発生する可能性のある平素の職場では、懐中時計を用いるようになり、それ以降は時計を失う失敗はなくなりました。燻し風のレトロな懐中時計は、けっこうオシャレで、気付いた人の受けも上々です。
 もちろんTPOに合わせて、腕時計も使っています。展覧会で資料を借用する際には、拝借点検の際にまず腕時計をはずすと、所蔵者の方は、モノを大切に扱うこちらの姿勢を見て安心されます。梱包後にお話が長びき、次の約束の時間が気になる時、懐中時計だと時間を見る動作が大仰になって相手を不快にさせる恐れもありますが、腕時計ならこっそり目をやって時間を確認することができます。なお白手袋は、所蔵者の方が望まれれば使うこともあるので、常に鞄の中にはひそませています。
 白手袋と時計。要は、どうすることがよりモノにいいか、という大原則にのっとって、その時その時で判断して使っていくのが、プロとしての学芸員の仕事といえるでしょう。
 ※手袋と時計については、人それぞれの考えがあるので、これが絶対ではありません。

高木叙子

 

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