調査員オススメの逸品 第212回 結界せよ!災厄から集落を守る聖なるお札・巻数板

写真1 松原内湖遺跡出土巻数板 赤外線写真

写真1 松原内湖遺跡出土巻数板(赤外線写真)

 今回ご紹介する逸品は、彦根市松原内湖遺跡で出土した「巻数板(かんじょういた)」です。鎌倉時代末のもので、平成26年度の調査で出土しました(写真1)。
 毎年の正月の初めに修正会(しゅうしょうえ)と呼ばれる法会が寺院など行われます。そこでは旧年の悪を反省し、その年の息災延命や増長増寿、五穀豊穣などを祈願します。祈願に際しては、たくさんの経典が読誦(どくじゅ)されますが、そこで読まれた経典の数や願文を書いたものが巻数板です。経典の名とその〈巻数〉を羅列しているから「巻数板」。松原内湖遺跡から出土した薄板は、近畿地方初の出土品ということで注目を浴びました。
 この巻数板の面白いところは、経典の名が列記されたことで〈聖なる力〉を持つお札へと変貌し、さらに活躍するところです。
たとえば鎌倉時代や室町時代の人々が恐れていたのは、世の中に潜む鬼や魑魅魍魎、疫病神など。これらは災厄そのものです。なんとか呼び込まず、避けたいところです。巻数板はそんな人々の不安を和らげるために転用されていました。

写真2屋敷の門に吊される巻数板/日本の絵巻20 一遍上人絵伝 中央公論社1988 

写真2屋敷の門に吊される巻数板/日本の絵巻20 一遍上人絵伝 中央公論社1988 

 災厄が入ってこないよう、屋敷や集落を聖なる空間(界)に設定することを〈結界〉といいますが、経典の名が列記されたことで〈聖なる力〉を持つお札は、修正会のあと、屋敷の門や集落の入口に吊り下げられ、その結界に用いられたのです(写真2)。聖なる〈巻数板〉は、中世の人々が用意したセキュリティー・ソフト。松原内湖遺跡は、その痕跡を示唆する数少ない出土例であり、中世の人々の世界観を物語る逸品の一つだと私は思います。
 中世のある段階になると、〈経典〉ではなく〈仏〉の名を羅列する新たなタイプが生まれました。滋賀県ではその後も更に豊かなバリエーションが生まれたようで、全国的に見ても多様かつ色濃く、巻数板の習俗が残る地域の一つとなり、それだけで楽しい写真集が刊行されるほどですが、松原内湖遺跡の巻数板は中世に遡るその基点の一つといえるでしょう。
 この松原内湖遺跡の巻数板、この2017年夏の調査成果公開イベント「あの遺跡は今!Part24」で展示予定です。展示期間は7月22日(土)・23日(日)の2日で、会場は滋賀県立安土城考古博物館整理室です。スペシャルな特典があるかも知れません。万障繰り合わせの上、是非お運び下さい。お待ちしております!

瀬口 眞司
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