調査員オススメの逸品 第219回 石で作られた剣の謎

 現在滋賀県立安土城考古博物館では、10月21日(土)から開催する、開館25周年記念 平成29年秋季特別展「青銅の鐸と武器-近江の弥生時代とその周辺-」の準備が佳境に入っています。今回は、展示資料の中から、是非じっくりと観察していただきたい逸品を紹介します。

写真1 弥生時代の石剣(出土地不明)

写真1 弥生時代の石剣(出土地不明)

 それは弥生時代の石剣です。滋賀県では、現在まで約90点の石剣が見つかっています。写真のように完全な形で残っているものや、破片となって、どこの部分か定かでないものもあります。この石剣の中でも、打製石剣(石を叩いて割り、剣の形にしたもの)や、高島市安井川遺跡から見つかった銅剣に似せて作った石剣などがありますが、ほとんどは写真1のような磨製石剣(石を磨いて剣の形に仕上げたもの)です。写真を見ると、何の変哲もない、ただの石を磨いて作られた剣のようですが、細かく見ていくとなかなか面白い点がいくつかあります。それでは特徴を見ていきましょう。
 素材は、観察する限り、頁岩や粘板岩と呼ばれる堆積岩の一種が使われています。これは、頁岩や粘板岩が薄く層状に割れやすいという特徴を持っているからだと考えられます。つまり原石から石剣の大まかな形をつくる際に、薄い板状に割れることから、石剣の形にしやすいことから、この石材が選ばれたと考えられます。
 大きさは、長さ15~20cm、幅3~4cm、厚さは1cm以下のものがほとんどです。形は柳葉状のものが多いのですが、写真1のように剣先に向かって直線的に細くなったものや、剣先から2/3の部分で不自然に角がついているものがあります。これは石剣の表面を詳しく観察すると繰り返し研磨した痕跡が残っています。このことから元々柳葉形だったものが、刃の部分を何度も研ぎなおすことにより、痩せていったと思われます。

写真2 刃と柄のさかいめ

写真2 刃と柄のさかいめ

 次に写真2のように石剣を横から見てみます。すると、刃の様に研がれた部分と、そうではなく、平坦に仕上げられた部分があります。この平坦な部分はおそらく剣の柄の部分と考えられます。その根拠としては、守山市下之郷遺跡から見つかった石剣には、この部分に木の皮が巻き付けられており、明らかに柄としての機能が考えられます。さらに、どの石剣にもこの平坦に仕上げた部分があることから、この石剣は全体を刃として使用し、柄の部分があったのではなく、全体の半分程度が剣の部分で、残りが柄と考えられます。つまり、石剣と呼んでいますが、「石製短剣」と呼んだ方がよいのではないかとも思われます。

写真3 「刃こぼれ」の様子

写真3 「刃こぼれ」の様子

 さてここまでこの石剣の外見上の特徴などを見てきましたが、肝心の使われ方はどうだったのでしょうか?これは今後、研究していく課題だと考えていますが、私は武器として使われたのではないと考えます。その根拠は写真3の「刃こぼれ」です。これはどの石剣にも見られます。この「刃こぼれ」は、細かく観察すると強い力で石剣を何かに叩きつけたような痕跡です。石剣の破片にもこれが残っており、叩きつけたことが原因で石剣がばらばらに割れてしまったのではと思われる破片もあります。実用の武器としての剣や短剣は、切ったり叩きつけたりするものではありません。突き刺すことが本来の使用方法です。そのことから考えると、この「刃こぼれ」は明らかに本来の使用方法から外れたことでできた痕跡だと考えます。

 以上、石剣について色々と述べましたが、ぜひとも博物館へ足を運んでいただき、実際に展示された資料をじっくりご覧になってください。そしてその使用方法を想像し、弥生時代について考えるきっかけになれば幸いです。

福西貴彦

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