発掘調査

整理調査の仕事

整理調査

「整理調査」には大きく分けて、以下の2つの作業があります。

1. 「遺構」の整理・理解に関わること

「遺構」とは、「家や建物の跡」や「火を焚いた跡」、「狩猟用の落とし穴の跡」「食糧等を貯蔵した跡」「お墓」など、地面に残された昔の人々が活動した痕跡のことを指します。「整理調査」では、現地調査で記録化された遺構についての資料(図面・写真類)を、整理し閲覧可能な状態にし、前述した「報告書」にその内容等を図・写真と共に文章化して記載することが、重要な仕事のひとつです。

2. 「遺物」の整理・理解に関わること

「遺物」には、実に様々なものがあります。まず一番多く見つかるのが、土でできた「お茶碗」や「お鍋」とそのかけら(「土器」と言います)で、それから石で作ったナイフや装飾品(「石器」と言います)もあります。その他にも、錆びてボロボロになった鉄や銅などの金属でできた道具(「金属器」と言います)や、腐ってしまって見つからないことが多いのですが、木や骨でできた櫛(くし)や簪(かんざし)など(「木器・骨角器」と言います。)もあります。

さて、これらの「遺物」は、発掘調査において、「どこから、どんな風に、何と一緒に、見つかったのか?」という点について、詳細・正確に記録をとりながら、採取されます。「整理調査」では、この「遺物」を、分類・整理・収納し閲覧できる状態にすることと、図面・写真等を作成して資料化し、その観察等から分かった当時の様子などを「報告書」にまとめることが大切な仕事の一つになります。
ここでは、特に「遺物」の整理調査を中心に、遺物が整理室に運び込まれるところから順を追って、さらに詳しくその作業内容を見てみましょう。

遺物洗浄

発掘調査によって出土した遺物が、この整理室に運び込まれて、まず最初に私たちがする作業は、その遺物の「洗浄」です。これは土や泥にまみれた遺物の表面をきれいにする作業です。一見、単純そうな作業にも思えますが、実は注意しなければならない点が幾つかあります。ここで少し紹介しましょう。

まず、水洗いすると溶けてしまいそうな土器や、鉄器や骨など水に濡れると錆びたり腐ったりしてしまうものなどを選別します。また石器では、その分析・検討の内容によって、表面をブラシ等を用いて水洗すると、必要な情報が土と一緒に洗い流されてしまったり、傷が付いてしまうこともあるので、一つずつ資料の内容を確認しながら、洗浄方法(水洗・湯洗・アルコール洗浄など)・道具(ハケ・歯ブラシ・筆や超音波洗浄機など)を適宜使い分けて作業する必要があります。
 それから、例えば「土器」の場合、表面に絵や文字が描かれていたり、あるいは色が塗られていたり、また鍋として用いられたモノであれば、表面にススやお焦げが付着している場合があるので、表面の様子を観察しながら、土や汚れだけを丁寧に取り除かなければなりません。

これらの点に注意しながら作業を進めようとすると、例えば「食器洗い器」のような機械・道具を使って洗うことはできないことがお分かりいただけるでしょうか?つまり一つ一つ、丁寧に手作業で進めていかなければならない作業なのです。

注記

遺物は、発掘調査の際の「出土状況」によって区別して採集され、袋や箱に分納された状態で運ばれてきます。この「出土状況」が、実はその遺物の年代や性格を考える上で、極めて重要なのです。「どんな遺物と一緒に見つかったのか?」「どんな遺構の中から見つかったのか?」「どのような‘土’のなかに埋まっていたのか?」等々の情報を、出土した年月日と共にカードに記入し、遺物と一緒に袋や箱に入れて持ち帰るのです。

しかし、例えばそれらの情報が、カードに記入され遺物と一緒に袋に入れた状態では、観察したりや記録をとったり、と言った作業を進める上では、実は非常に不便です。そこで、遺物の種類や表面の遺存状況等に応じて、その表面に小さな文字でその情報を書き込むことが工夫されるようになりました。この作業を、私たちは「注記」と呼んでいます。

接合・復元

遺跡から出土した遺物は、多くの場合「壊れた」状態で出土します。ですから、そのままの状態では、その「器」が元々どんな形をしていたのか、ということが分からないことが多いのです。そこで、「接合・復元」という作業を行います。

注記された資料を、机の上に広げて、「ジグソーパズル」を作るように、一つ一つの破片を順番につなぎ合わせていきます。まず似た色、模様、厚さなどによって、くっつきそうなものを集めながら、次に実際にくっつくかどうかを試します。そしてくっつくことが分かれば、接着剤・のりを用いてつなぎ合わせていきます。

こうして実際につなぎ合わせていくと、不思議なことに、辛うじて全体の形や大きさなどは分かるものの、その大半の破片がなくなっているものが、実は意外に多いのです。そこで、一般の方にご覧頂くためには、より具体的に元の形がイメージし易いように、「復元」しておくことが良いでしょう。そこで、接合した破片に、「石膏」を補い、元の形に近い状態に「復元」するのです。

計測・実測・写真撮影

注記あるいは接合・復元の工程を経た資料は、その大きさや重さを測ったり(「計測」)、実測図を書いたりする作業を行います。「実測」というのは、遺物の寸法等を測って、同じ大きさの図を書くことを言います。そして、表面の様子や形、色などの情報を保存・提示するために、記録写真も撮ります。また必要に応じて、「拓本」(墨を使って和紙に細かい模様等を写し取る作業)や、X線写真を用いて表面観察だけでは分からない、遺物の「中」の様子を観察することもあります。

遺物は、その種類によって、大きさや形、色などに特徴があります。そして地域や時代が違えば、その様子も大きく異なります。ここで行う作業は、それらの遺物一つ一つを、丁寧に記録として残し、資料化していく作業です。

実はこの計測や実測、写真撮影という作業が、整理作業全般の中で、もっとも専門知識を要求される作業と言えます。例えば「土器」の場合、どんな土を使っているのか?(その土はどこで採れるのか?)、どんな道具を使い、どんな作り方で作られているのか?どんな形・色をしているのか?などの情報を、丁寧に観察し、実測図や観察表として記述していかなければならないからです。また「石器」であれば、「その材料になっている石材は何か?(どこで採れるのか?)、どんな割り方をしているのか?表裏で作り分けはあるのか?どんな使い方をしたものなのか?」等々、実に多くの観察を正確に行わなければなりません。

トレース・報告書作成

ここまで進めてきた調査・作業等で分かってきたことを、たくさんの記録図面や写真と共に、皆さんにご覧いただけるような、「本(=報告書)」を作る作業です。

発掘調査の時の記録図面や、整理調査の中で実測・資料化してきた図面類を、製図用の特殊なペンを使って書き直すのです。この特殊なペンは、一度間違えると一からやり直さなければならない場合も多く、慎重に丁寧に進める、いわば「仕上げ」の作業の一つです。

こうして作られた「図面」に、遺物の観察結果やそこから分かった当時の様子などを、文章による説明として加え、「報告書」の原稿が出来上がります。

なお、この報告書とは、発掘調査をすると、必ず書いて出版しなければならない本です。「遺跡(発掘・整理)調査報告書」と呼び、どこにある何という遺跡を、どんな風に調査したのか、その結果何が見つかったのか、どんなことが分かったのか…、そんな「調査・研究」の成果が、本の形にまとめられています。皆さんの住んでいるお近くの図書館などにあるかも知れません。自由に閲覧して頂けるようになっていることでしょう。是非一度、探してみてください。

保存処理・修復

「遺物」の中には、そのまま置いておくと腐ってしまうものや壊れてしまうものもあります。例えば、乾燥すると反ったりヒビが入ったりして壊れてしまう「木器」や、逆にしっかり乾燥させておかないと腐敗(錆びる)が進行してしまう「金属器」などがそうです。

「保存処理」は、これらの遺物がこれ以上に痛まないようにするための作業です。例えば木器の場合では、木材に含まれている水分を「樹脂」に置き換えることによって、遺物の劣化を食い止めるための処理作業を行います。また、金属器の「さび」を落として元通りの形を復元し、さらに酸化しないように湿気などを遮断する工夫を施して、収納・管理することも大事な作業のひとつです。

収納・管理・活用

報告書に掲載された遺物などは、どなたでもその資料の閲覧が可能になります。そのために、全ての資料の中から、見学・閲覧希望のあった資料を即座に検索できるように、その収納・管理も大切な仕事の一つです。

また、博物館などの「展示」への遺物貸出、あるいは小中学校等の教育現場への教材としての資料貸出、一般の人の資料見学への対応、などがあります。

また近い将来は、インターネット等を通じて、自宅や学校にいながら、資料の写真等の検索・閲覧も可能になるかも知れません。

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