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調査員のおすすめの逸品 No.60 こだわりのフィルムカメラ

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財団法人滋賀県文化財保護協会に就職することになり、最初に私が勤務したのは滋賀県立安土城考古博物館内にある調査整理課という部署でした。初日に、先輩方に施設を案内してもらった後の昼食時のことです。雑談の中で、学生時代に8ミリフィルムで映画を撮っていた、という話をしたところ、翌日には私の業務担当の一つに「遺物写真撮影に関すること」になっていました。
目の前に積まれた様々な写真器材。これは何に使うの?実際のところ8ミリカメラと写真用カメラの共通点なんてそれほどありはしません。事実上、ゼロからのスタートでした。
その後、自分で勉強し、研修にも参加し、数え切れない失敗を繰り返して、どうにか一通りのことはできるようになりました。…と思ったら、いつの間にか世間にはデジタル化の波が。もうついていくのが大変!

フィルムカメラ 左:120判のカメラ 右:35㎜判カメラ
フィルムカメラ
左:120判のカメラ 右:35㎜判カメラ

しかし、実は私たちの職場では、未だにメインはフィルムカメラを使っています。しかも120判という大きなサイズの白黒フィルムを使います。白黒写真は、100年以上前、カメラが発明されたころのガラス乾板がいまだに焼き付けできることからも、画像の再現性や保存性が優れていることが証明されています。一方、カラーフィルムは色情報がある分、白黒よりも優れているのですが、画像の形成方法が異なるために、年月と共に画像が消滅してしまうので、保存には向きません。
遺跡の発掘調査は、破壊されてしまう遺跡に対して行われることが大半です。つまり、私たちが撮影した写真が、在りし日の遺跡の姿を伝える重要な資料になるのです。ですから私たちが撮影する際には、経済的・作業的に折り合う範囲で最高かつ安全な記録方法を用いて、可能な限り多くの情報を正しく記録することとが要求されます。そして、その記録を適正な方法で現像し、保管して後世に伝えることが重要です。この条件を満たすのが、120判のフィルムカメラなのです。
デジタルカメラの方が経済的だという意見もあるでしょうが、今のところ120判フィルムに匹敵する解像度のデジタルカメラは1台数百万円というとんでもない値段がするので、日常的な使用には現実的ではありません。こうしてそれぞれの条件を考えていくと、120判白黒フィルムでの撮影が現状ではもっともベストの選択ということになるのです。

フィルム 上:35㎜判フィルム 下:120判フィルム
フィルム
上:35㎜判フィルム 下:120判フィルム

私たちの発掘現場では、ペンタックス67というカメラをメインにしています。これは少々重いですが、操作系がスタンダードな35㎜一眼レフと同じでわかりやすく、機動性も高くて扱いやすいカメラです。これは私たちの調査を支えてくれている大事な大事な道具なのですが、やはりデジタル化の波は避けることができず、最近ついに生産中止になってしまいました。
幸い頑丈なカメラなので元気に動いていますが、次はカメラが壊れるより先に、フィルムが無くなってしまいそうな雰囲気になってきました。そうなると、もうデジタルカメラしか選択肢がなくなってしまうのですが、それまでは可能な限りフィルムを使い続けることになると思います。
ちなみに、私個人としては、やっぱりフィルムカメラが好きです。往年の高級マニュアル一眼レフのシャッターを切る感覚は、何者にも代え難い魅力があります。…こういうのも、オールド・ウェイブの繰り言なんでしょうかね。

(阿刀 弘史)

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