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調査員のおすすめの逸品 No.69 タフな現場の相棒-公用車

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「調査員おすすめの逸品No.16」でも舞台となった、東近江市の百済寺南川遺跡では、もう1つ私の心の支えとなった逸品があります。それは職場の公用車です。

公用車1号
公用車1号

公用車は主に現場の器材の運搬に使用することが多く、タフな自動車が選ばれます。百済寺南川遺跡の調査では、私は1号車とよばれる公用車を使用しました。今回は当時の私の相棒となってくれた、公用車1号を紹介します。
我々の仕事は、自家用車を多用することが多いので、年間の走行距離が3万キロ以上になることは珍しくなく、あっというまに走行距離は10万キロを超えてしまいます。こんなのではお金がいくらあっても足りないので、当時私は割り切って軽自動車に乗っていたのですが、百済寺南川遺跡の調査のときには、走行距離は10万キロを超え、見た目も中身も「ポンコツ」の名に相応しい車となっていました。
そんな時に担当した現場が百済寺南川遺跡です。調査地は、鈴鹿山地の中腹での砂防工事に伴う調査のため、林道は通じているものの急勾配の未舗装路でした。私のポンコツ号では車の寿命も私の寿命も縮めてしまうかもしれない道中でした。おまけに測量器材・出土遺物・実測図面などを仮置きする事務所も建てられない場所でした。上司と相談したところ、浮上したのが公用車を最大限に活用する案でした。このとき選ばれたのが、数少ない普通自動車サイズの公用車中で、唯一の四輪駆動車だった公用車1号でした。
四輪駆動の公用車1号は、林道走行・現場事務所・器材運搬などで大活躍しました。寒い晩秋の山中で、雨・風だけでなく、オオスズメバチの威嚇や攻撃からも守ってくれました。

現場の公用車1号
現場の公用車1号

やがて冬となり、雪の季節となりました。その年は久しぶりの大雪で、現地調査は終了したものの、大雪のために器材類を現地に残したまま撤退せざるを得なくなりました。降り続いた雪の合間をねらい、残して行った器材類を引き上げに行くことにしたのですが、現地までの林道はかなりの積雪でした。
砂防工事の方に林道と現地の状況を確認したところ、「いま重機を使って除雪をしていますが、行くのはやめた方が…」とのこと。しかし器材を撤収しないと調査を終えた気分にならなかったので、「とりあえず行ってみます。」と、工事の方々に告げ、雪の林道へ突入していきました。 最初は順調でした。「いけるんちゃう?」などと思っていたのですが、標高が上がるにつれ、積雪量が増してきました。林道でも急傾斜の箇所になったところ、遂に車が登らなくなりました。車体の下は雪でつかえ、タイヤも空転するばかり。「ああ、やっぱり無理か…」と思い、バックで下山しようかと思っている内に、車が勝手に後進し始めました。「バックギア入れてないよ!?」と思っている内に、車がどんどん下がって行きます。ハンドルをどうにかしても、車は関係なしに真っ直ぐ下がっていきます。林道の横は急斜面の谷で、転落すれば間違いなく死んでしまう高さです。
「ああ、神様、ご先祖様!助けてください!」と、本当に心から願ったことを覚えています。冬だというのに嫌な汗をタップリかいた頃、車が下がるスピードが緩やかになりました。四輪駆動のタイヤが雪を捉え始めたのです。おかげでハンドル操作も可能になり、無事に下山することができました。
結局残して行った器材類は、雪が解けた日に撤収したのですが、撤収にはもちろん公用車1号で行きました。
雪の林道で危うく遭難しかけたのは、四輪駆動を過信したのが原因だったのですが、四輪駆動に助けられたのも事実。このように思い出深い公用車1号ですが、今では走行距離も10万キロを超え、エアコンも効かなくなり、退役の日も近そうです。公用車1号さん、退役しても忘れないよ。

(重田 勉)

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