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調査員のおすすめの逸品 No.7 縄文人の工夫と祈り ―六反田遺跡の貯蔵穴と土偶―

彦根市
貯蔵穴(六反田遺跡) 半分掘りかけているところ
貯蔵穴(六反田遺跡) 半分掘りかけているところ

2008年6月、私は彦根市の鳥居本にある六反田(ろくたんだ)遺跡で、縄文時代後期末(約3000年前)の集落跡を調査していました。ここで私は、食料を貯蔵するための「貯蔵穴」と「土偶」を掘り出し、縄文人の工夫と祈りを目の当たりにしました。
縄文時代が始まる前の数10万年間、旧石器時代の人の主な食料は大型獣(オオツノジカなど)でした。この中型獣や大型獣は遊動する習性があるので、当時の人もまたこれを追いかけ、移動生活を繰り返していたと考えられています。ところが、気候が温暖化し始めた1万数千年前頃・・・つまり縄文時代のはじめ頃から、人々の主食は大型獣から木の実などに変わりました。その結果、移動する必要性が減り、定住生活へ移行していったと考えられています。定住生活とは、1年を通して同じ集落で過ごす暮らし方で、一見安定的に見えます。しかし、主食や暮らし方のこのような変化は、彼らに大きな危機を抱え込む契機にもなりました。その危機とは、季節に伴う食料資源量の変化です。縄文人の主食である木の実は秋から初冬に稔り、人々の「食」を大いに支えました。しかし、そのあとは夏の終わりまで結実しません。木の実を食料にできる期間や量は、自然のままではごく限られるのです。
この危機を解消するために発明されたのが貯蔵穴です。六反田遺跡の貯蔵穴は直径1~2m、深さ0.5m以上のもので、15基以上ありました。彼らは生き残っていくために、秋に稔った木の実(カシ・トチノキ・コナラなど)をこの穴に収め、冬から翌秋までの未来への投資を試み、保険を掛け、蓄えを作り出していたのです。

土偶(六反田遺跡) 頭・両腕・右足を欠いています。
土偶(六反田遺跡) 頭・両腕・右足を欠いています。

一方の土偶は、乳房などの表現から見て女性を象ったものだといえます。世界の神話では、女神の体をばらして埋め、そこから新たな食物を繁茂させるという物語が数多くあります。土偶の多くは、乳房や尻を強調していることから、神話の世界にあるような「生殖」や「豊穣」にまつわる「依代(よりしろ)」だとも考えられています。六反田遺跡から出土した土偶(長さ12.0㎝、幅6.8㎝)もまた、大きな乳房をもつ女性像で、頭部や両腕、右足を欠損するものでした。
私が驚いたのは、この土偶が貯蔵穴の1つから出土したことです。私には彼らが貯蔵穴の中に土偶を収め、「豊かな稔りが途切れませんように…。蓄えが枯れませんように…。」と切に祈った姿が想像されます。彼らは稔りの時期に懸命に働いて来る冬に備えて、未来へ投資していました。同時に、自分たちの力を過信することなく、その限界もよく理解し、運命やそれを差配するものへの畏敬の念 ―祈り― をもって暮らしていました。この姿は、世界経済の低迷や資源問題、環境問題で揺れる21世紀の我々に何が必要なのかを伝えてくれているようにも思えます。
少々口幅ったい紹介となりましたが、以上のような想いから、私はこの2つを「逸品」としてお勧めします。土偶については、現在、滋賀県埋蔵文化財センターにおける「レトロ・レトロの展覧会」で、2009年8月末まで展示中です。展覧会に関する情報は、ご覧のホームページでも紹介していますので、ぜひとも足をお運び下さいますように。

(瀬口 眞司)

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