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初期の遺跡地図:滋賀県遺跡目録

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調査員のおすすめの逸品 No.83 埋蔵文化財保護の座右の書 『滋賀県遺跡地図』

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遺跡地図の内容
遺跡地図の内容
2万5千分の1の地形図に遺跡の範囲が示されています)

滋賀県には約4,600ヶ所の遺跡があります。その位置と概略を一冊にまとめたものが『滋賀県遺跡地図』で、平成22年度版が最新版です。
辞書で「遺跡」の項を見てみると、「①過去の人類が残した遺構もしくは遺物のある所。貝塚、住居跡、古墳など。旧跡。古跡。」(岩波書店『広辞苑 第五版』)とあります。私たちは時々、「「遺跡」というのはどれくらい古い時代のものをいうのですか?」と聞かれます。たとえば、昨日、もう使わなくなった日用品を地面に穴を掘って埋めたとします。この穴やゴミは、将来、この時代の生活のありさまの一端を伝える「遺構」や「遺物」になり、ゴミ穴を掘った場所が「遺跡」になるかもしれないのですが、どれくらい時間がたてば遺跡になるのでしょうか。これは、なかなか答えが難しい質問です。
冒頭、約4,600ヶ所ありますと紹介した「遺跡」。実は、これは辞書で示されている「遺跡」とは少しちがう意味合いを持っています。教育委員会が発行する『遺跡地図』に掲載される遺跡は、文化財保護法に基づく保護の対象となる場所であり、法律で「埋蔵文化財包蔵地」と言われています。埋蔵文化財包蔵地は、その名前のとおり、土地に埋もれている文化財である「埋蔵文化財」を包蔵する土地であり、約4,600ヶ所というのはこの数なのです。つまり、辞書でいう広義の遺跡の中で、文化財として保護すべきものが『遺跡地図』に示された遺跡であり、その場所で土木工事などを行う時には届出などをして、必要な保護を図ることが法律で決められているのです。

初期の遺跡地図:滋賀県遺跡目録
初期の遺跡地図:滋賀県遺跡目録

ここで、先ほどの質問に関わりますが、『遺跡地図』に掲載される埋蔵文化財包蔵地(遺跡)として保護の対象として扱われる遺跡はどの範囲なのでしょうか。これについては文化庁が、
①おおむね中世までに属する遺跡は、原則として対象とすること。
②近世に属する遺跡については、地域において必要なものを対象とすることができること。
③近現代の遺跡については、地域において特に重要なものを対象とすることができること。
という、3つの原則を示しています。
これによれば、現在の日本の文化財保護の観点では、中世と近世の間に遺跡としての境があり、それよりも新しい時代のものは、それぞれの地域の特性に応じて取り扱いを判断する、ということになっています。どういった視点で遺跡というものを考えるのかによって、その時代幅が決まってくるのですね。答えが難しいと言った理由はここにあります。
ところで、雑学ですが、誰が『遺跡地図』に掲載される埋蔵文化財包蔵地(遺跡)の範囲を決めているのでしょうか。現在の制度では、市町村教育委員会がまず分布調査などによってその所在を把握し、その結果を受けて都道府県教育委員会が必要な手続きを踏んで遺跡の範囲を決定するとされています。

5冊揃った滋賀県遺跡地図
歴代の滋賀県遺跡地図(黄色が最新版)

ちなみに、昭和36年に出された滋賀県最初の遺跡地図『滋賀県遺跡目録』には、616ヶ所の遺跡が掲載されています。その後、『遺跡地図』は7度の改訂が重ねられ、昭和40年度の『滋賀県遺跡目録』に2,014ヶ所、昭和55年度には2,860ヶ所、昭和60年度の『滋賀県遺跡地図』では3,885ヶ所と改訂のたびに遺跡数は増加し、平成7年度には4,646ヶ所に達しました。その後、市町村合併によって複数自治体にまたがる遺跡の件数が整理されるなどの経緯があって、現在の遺跡数に至っています。
埋蔵文化財は、文献などの記録では知ることのできない地域の豊かな歴史を物語る大切な資産です。遺跡数の増加は、よりきめ細かく遺跡の保護を図るための取り組みが年々進められてきた結果であり、『遺跡地図』は、埋蔵文化財の保存に影響を及ぼすような開発事業などに対して、計画段階からその保護に配慮を期待するために必要な情報として、大きな役割を果たしてきています。
私たち滋賀県文化財保護協会は、滋賀県内の埋蔵文化財を調査・研究・保護し、その文化財を活用して普及・啓発などの事業を行うことを通して、県の文化の向上に寄与するために設立されました。私たちのしごとの根幹である埋蔵文化財(遺跡)を示した『滋賀県遺跡地図』。私たちの座右の書です。今回の逸品では、そのあれこれを紹介しました。

(大崎哲人)

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