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調査員のおすすめの逸品 No.65 古代の自画像?-六反田遺跡出土人形

彦根市
人形
人形

古代人の顔?てどのようなものだったのでしょうか。当然、写真があったわけではありませんので絵図等から想像するしかありませんが、もしかしたら自分で書いた顔かも?という資料が遺跡から出土します。

人形それは人形(ひとがた)です。出土した彦根市の六反田遺跡の木簡についてはNo.58で紹介しましたが、その木簡が出土した川跡から人形も出土しています。
人形とは、古代の祭祀(おまつり)に欠かせないアイテムです。文献によれば、紙などで作った簡単な立雛形式の人形に自分の名前や年齢を書き、それに息を吹きかけ川に流すことにより、罪や穢れ、禍を祓う道具をさします。現在でも人の形をした紙製の形代(かたしろ)に名前を書いて奉納することができる神社があります。平安時代の行政や法律の施行規則をまとめた『延喜式』木工寮によれば、人形の素材には金・銀・鉄・木製のもありました。
しかし、古代において最も一般的に使われた紙製の人形は、遺跡から出土することはありません。紙のように薄ものは、どうしても長い年月をかけて土中で分解されてしまうためです。そのことから、遺跡から出土する一般的な人形は木製のものになります。しかし、この木製の人形もどこでも見つかるわけではありません。
まずは、当然人形が使用されているような施設や場所であることが第一の条件です。これは古代の祭祀を実施することができた場所(遺跡)を指しています。

人形

そして、二つ目に紙同様、木製のものであっても、紙ほどではありませんが土中で分解されて自然にかえってしまいますので、遺跡や遺構の埋土が、木製品などの有機質が残りやすい状態を保っていることが第二の条件です。ちなみに木製品が残りやすい状態とは、地下水位が高いなどじめじめした状況であることを指しています。その結果、この二つの条件を満たした遺跡から出土します。幸い滋賀県は中央に琵琶湖があり、木製品が残る条件が整う遺跡が数多くあります。

人形その一つ、六反田遺跡の川跡は、もともと川の跡であったこともあり、堆積していた土は水気が多く、粘土に混じっておが屑状の有機質が大量に含んでいました。そのため木簡も残っていたわけです。だから、木簡同様にうすい板で作られた人形も同様に残っていました。
この出土した人形、完形品でないのですが人の形に板材を加工し、顔にあたる部分に墨で顔を書いています。
それが写真1~3です。これらをみているとなんだか子どもが書いた似顔絵のようで、古代の大の大人(おそらく役人)が書いたとはとても思えない仕上がりです。また、見ようによってはアニメに登場しそうなキャラクターにも見え非常に愛嬌があり、愛らしくも思えます。眉、目、鼻、口、そして髭などをいろいろな形で描き、絶妙なバランスで配置されています。人形が自分の身代りであったことを考えると、書いた人の自画像であった可能性もあり、なんだか楽しくなってきます。

人形

後日談ですが、これらの人形の1点を調査中に見つけた調査補助員さんが、翌日からインフルエンザに罹り、しばらく現場を休んでいました。日頃は元気いっぱいの調査補助員さんでしたので、もしかしたら古代の人の禍を引き受けてしまったのかもしれません(笑)。

(堀 真人)

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