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調査員のおすすめの逸品№383 発掘調査の思い出-石田三成による大工事「佐和山惣構御普請」の発見- 

彦根市

 去る9月23日、国道8号線米原バイパスが全線開通を迎えました。国道8号現道の慢性的な渋滞緩和や、名神高速道路の代替路としての機能など、大きな役割が期待されています。

 このバイパスの南端部は彦根市佐和山町に位置しますが、ここには石田三成の居城として知られる佐和山城跡が所在しています。当協会ではこのバイパス建設工事に先立ち平成30年~令和4年にかけて佐和山城跡の発掘調査を行いました。

 調査の対象となったのは佐和山城跡の中でも主に城下町にあたる地区であり、佐和山城下町の年代や構造、そこで営まれた生活の様子をうかがう上で大きな成果が得られています。 

 ただ、調査を進めていく中で、城下町の姿が明らかになっていくことは重要な成果ではあるとわかりながらも、調査担当の私の中ではある欲張りな思いが生まれてきたのです…。

 「せっかくならば石田三成と直接結びつくような発見はないものか」

 もちろん、期待どおりの遺構や遺物が見つかることは稀ですし、ましてや私たちの仕事は「宝探し」とは違いますので、本気で願っていたわけでもないのですが、心の片隅に淡い期待を持ちつつ日々調査にあたっていました。

 そんな中、現地調査の最終年となった令和4年、調査対象箇所を知った私は期待と不安を抱き現地に赴くこととなりました。図面で調査箇所を確認してみると、歴史地理学の研究によって城下町を囲む外堀の北端とされる地点であったからです。楽しみな一方で、重要な遺構が推定されることから、気を引き締めて調査に臨まねばならないという思いももちました。

 調査がはじまってみると、予想どおり外堀の一部と思われる大規模な溝が検出されました(写真1・2)。推定どおりの位置で見つかったことに加え、幅は10m近くにもなり、通常の溝と考えるには大規模であること、城下町が存在した時代以外にこうした大規模な溝が設けられる蓋然性は極めて低いことから、この溝を外堀と評価するにいたりました。

写真1 外堀とその周辺 南東から
写真2 外堀 西から

 実はこの外堀が私が抱いていた期待にも大きく関わる遺構だったのです。それはどういうことなのか…

 外堀から出土した遺物をみると、大半が小片でしたが、わずかながら年代を判定できるものがありました。中でも最下層から見つかった志野焼(しのやき)の鉢(あるいは向付か)が特に注目されます。志野焼は16世紀の最末期から17世紀初頭あたりに出現したやきものですが、調査で見つかった志野焼を詳しい方々に見ていただくと、釉の色合いや貫入(釉薬の表面にできたヒビのこと)の特徴から比較的古手のものと考えられるとのことでした。つまり、出現期の志野焼であるということができ、ちょうど石田三成が城主であったころに合致するのです。

さらに重要なのが、文禄5年(1596)のものとされる三成の家臣・須藤通光の書状(下郷共済会所蔵)です。この書状には「佐和山惣構御普請」という文言がみられます。「惣構」(そうがまえ)とは城の最外郭部の堀や土塁、あるいはその堀や土塁によって囲まれた空間を指します。調査で見つかった堀も佐和山城の内外を限るもので、城下町を囲むようにして設けられており、「佐和山惣構」に該当する可能性が高いとみられます。

 文禄5年は三成が城主となった翌年のことで「惣構御普請」により自身の居城およびその城下町の拡張整備をおこなったものと考えられます。外堀についても三成が城主となり、城下町整備の一環として設けられたものと評価できるでしょう(図1)。三成が外堀の細かなプランや工事計画にまで指示を出していたかはわかりませんが、彼が城主の時代のものといえる遺構が見つかったため、私の淡い期待は現実のものとなったのです。「佐和山惣構御普請」の痕跡が見つかったということで現地説明会も開催したところ、多くの方にお越しいただくことができ、佐和山城跡の調査の中でも特に思い入れのある調査成果となりました。

図1 調査成果を基にした城下町推定復元図(文禄5年~)(山口作成)

 佐和山城跡の調査成果については、現在、報告書刊行に向けて整理調査を実施している最中です。整理調査を進めていく中で新たに分かったこともあるので、これらについても折を見てご紹介できればと思います。ぜひご期待ください!

(企画整理課 山口誠司)

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