記事を探す

オススメの逸品

調査員のおすすめの逸品 No.21 自然界の万能容器 ひょうたん

大津市
出土したひょうたん (粟津湖底遺跡)
出土したひょうたん (粟津湖底遺跡)

1991年、琵琶湖底の水をせき止めて行われた大津市粟津湖底遺跡の発掘現場から、縄文時代早期初頭、今から約9600年前のひょうたんが見つかりました。
ひょうたんは熱帯アフリカ原産の栽培植物で、1万年前頃以降には世界各地で見つかっています。一口に「ひょうたん」といっても、かんぴょう(乾瓢/甘瓢)に加工されるユウガオの類や苦くて食用に向かないヒョウタンの類もありますが、分類学的には同一種で種子は同じ形です。しかし、果実の形態は多様で、豊臣秀吉が馬印に用いたような中央くびれのものから、球形、洋梨形、長筒形などがあります。発掘調査で見つかるひょうたんは種子だけや果皮の一部が見つかることが多いので、数多くある種類のうちのどれであるかを特定することは困難です。そのため、考古学の世界では通称「ヒョウタン仲間」と呼ばれています。

出土したひょうたんの果皮と種子 (粟津湖底遺跡)
出土したひょうたんの果皮と種子 (粟津湖底遺跡)

世界的に、ひょうたんは食用以外にも活用されており、実に様々に用いられています。果実の中を中空にすることができ、そして中空にすると非常に軽いので容易に持ち運ぶことができます。使い方は大きさや形状によって決まり、「球形」や「洋梨形」のものは縦に半切してたり、上部に小さい穴をあけて容器として用いられます。近年話題になったテレビの韓流ドラマ『太王四神記』や『宮廷女官チャングムの誓い』でも水を汲む容器として登場します。中央のくびれたいわゆる「ひょうたん形」や「長筒形」のものは、上部を切り落としてザックとして使われ、フタなどの付属品をつけて流動物を入れたりします。「ひしゃく形」のものは縦に半切してスプーンやひしゃくとして使います。また、太鼓・木琴などの打楽器やギターなど弦楽器の共鳴器のほか、線刻や絵画などを施して装飾品にも用いられます。さらに祭具等にも用いられており、『日本書紀』や『延喜式』などの古代の文献にも記されています。船幽霊に底なしひょうたん(ひさご・ひしゃく)を渡す話も有名です。中国では仙人が起死回生の薬を入れていたり、望む物を出して福を得たり、『西遊記』に出てくるように妖怪「金角・銀角」を吸い込んで退治したり、童が生まれる話もあります。これらはひょうたんの中空を生命や繁殖の象徴、神霊の宿る入れ物と捉えています。

現代のひょうたん容器 (長浜愛瓢会所蔵)
現代のひょうたん容器 (長浜愛瓢会所蔵)

このようにひょうたんは食用、装飾品、祭具、楽器のほか、水や酒などの液体だけでなく穀物などの固体も入れられる万能容器でもあります。古代人が土や木から器を作り出すには一定の技術が必要でしたが、ひょうたんは土器や木製容器が使われるずっと以前から、自然の生み出した万能容器として非常に重宝されていたことでしょう。
私が遺跡から見つかったひょうたんに初めて出会ったのは冒頭の粟津湖底遺跡ですが、その後いろいろな場所・時代のひょうたんを見るにつけ、自然界の産物を巧みに利用してきた人々の知恵と、多様性に富んだ貴重な逸品「ひょうたん」に思いを馳せるのです。

(中川治美)

参考文献
・『琵琶湖開発事業関連埋蔵文化財発掘調査報告書』1(粟津湖底遺跡 第3貝塚)1997 滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会
・『琵琶湖開発事業関連埋蔵文化財発掘調査報告書』3-2(粟津湖底遺跡 自然流路 2000 滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会

Page Top