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調査員のおすすめの逸品 No.19 真空凍結乾燥機-木簡を保存処理するハイテク装置-

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木簡とは木の札に字が書かれたもので、古代の役所や河川跡、井戸跡などから出土します。 木簡には墨で字が書かれていますが、出土後に酸化したり乾燥することで文字が見えにくくなります。そこで、木簡を保存し安定な状態にするため科学的な方法で処理することになります。それが今回紹介する逸品”真空凍結乾燥機”です。貴重な木簡を保存処理するためのハイテクノロジーな装置です。

真空凍結乾燥機(左:小型 右:大型)
真空凍結乾燥機(左:小型 右:大型)

真空凍結乾燥法(フリーズドライ)で処理されたものは、インスタントラーメンをはじめ、コーヒーやスープなどの食品からカゼ薬などの医薬品にいたるまで、私たちの身の回りのたくさんのものにみられます。真空凍結乾燥とは、水分を含んだ品物を、マイナス30℃以下で急速に凍結し、さらに真空状態で水分を昇華させて乾燥する方法です。凍結乾燥の歴史は、1950年代に食品の保存と軽量化を目的に本格的な研究が開始されました。それまでは熱風による乾燥や加熱して濃縮するなどの方法が主流でした。しかし、1970年に真空凍結乾燥法の実用化によって、みなさんおなじみの「さけ茶づけ(永谷園)」や、「カップヌードル(日清食品)」が誕生しました。
文化財の保存の話にもどりますと、木簡の保存処理への応用は、今から約35年前に基礎的な研究がはじまり、その後、奈良の平城京跡出土木簡を皮切りに、全国各地で出土した木簡に、つぎつぎに真空凍結乾燥法が実用化されました。

保存処理前の木簡
保存処理前の木簡
保存処理後の木簡
保存処理後の木簡

真空凍結乾燥法の長所は、
①乾燥による収縮や亀裂など形の変化が少ない
②調理した時の形のまま仕上がる
③乾燥による成分変化が少ない
④味や色、栄養成分(ビタミンなど)の変化が少ない
⑤お湯でもどせば元の形にもどる
⑥軽量化でき、長期保存が可能
など、その革新的な技術のおかげでフリーズドライによる製品は世界中に広がりました。 いっぽう短所としては、
①処理に要するエネルギー消費量が大きい
②機械設備が大がかりである
③前処理に高度なノウハウが必要
④メンテナンスコストが高い
などがあげられます。

滋賀県立安土城考古博物館には、長さ約3mの大型機器と、約1mの小型の2台の真空凍結乾燥機が設置されています。これまでに保存処理された木簡などは、合計で800点あまりにのぼっています。真空凍結乾燥法で保存処理することにより、木簡が明るく仕上がり、書かれた文字をはっきりと見ることができるようになり、安定した状態で保管収蔵することができます。

(中川正人)

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