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調査員のおすすめの逸品 №266 ニホンカワウソの思い出―多賀町萱原の二丈坊―

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どうみてもカワウソにはみえないが
どうみてもカワウソにはみえないが

勇犬小石丸伝説で知られる大滝神社を過ぎ、さらに犬上川を遡ると、萱原という集落に至ります。集落の入口のバス停に、巨大な険しい顔をした像が立っています。恰好からして僧侶のようですが、どうみても人間ではありません。実はこの像、「二丈坊」という、萱原に伝わる妖怪の像なのです。
二丈坊の像の前には、由緒が書かれた石板が置かれています。石板に書かれた由緒によると、「萱原には昔、カワソ(カワウソ)が、二丈坊に化けて村人をおどかしたという伝説がある。それで昔は、「いうことを聞かないヤンチャは、二丈ぼんに連れていかれるぞ」と言って子どもを誡めたという。」と書かれています。
よくある子どもに言うことを聞かすお話ですが、カワウソの化け物というのが興味深い。
ニホンカワウソは。2012年に絶滅種となりましたが、昔昔は犬上川にも生息していたということなのでしょうか。埼玉の秩父に残るオオカミ信仰のように、昔昔は、今はみることができない絶滅野生動物が、普通にいたということに浪漫を感じます。
ところで、カワウソという動物は、私的に思い出がある動物です。もちろん見たことはないのですが、若い頃のエピソードをひとつ。
私は大学生だったころ、動植物好きのサークルに所属していました。仲間といっしょに和歌山市の沖にある友ヶ島へ、タイワンリスとタイワンジカを見に遊びにいったとき、海岸に小動物の骨が打ち上げられていました。小さな頭蓋骨に細長い胴体と尻尾、その姿をみて友人が、「これ、もしかしてカワウソじゃないのか。徳島の吉野川はカワウソ生息地だから、対岸のここに流れてきたんじゃないか?」「ということは、これはニホンカワウソの白骨死体か!」などと呑気な学生たちは盛り上がり、またしても呑気に天王寺動物園に電話して事情を話しました。動物園側からは、「奈良文化財研究所の松井先生に聞いてみてください。動物遺体などにお詳しいので。」というお返事をもらいました。
またまた呑気な学生は、松井先生あてに手紙と写真を送りました。奈良文化財研究所の松井先生というのは、動物考古学の松井章氏のことでして、呑気な学生はそんなことも知らずに手紙を送ったのでした。
松井先生は、呑気な学生の問い合わせにきちんと返事をくださいました。
「おそらく、猫の骨だと思います。」と。骨格の特徴などがカワウソとは違ったようです。友ヶ島に住んでいた野良猫が、海岸で死んでしまい、白骨化してしまったのでしょう。
松井章先生は、若くして亡くなられましたが、呑気で馬鹿な学生の問い合わせに真面目に対応してくださいました。どうもありがとうございました。
私はカワウソと聞くと、あの頃のことを思い出します。

(重田 勉)

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