オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 No.49 選別の達人-強力磁石-
滋賀県内には鉄鉱石から鉄を製錬し、鉄素材を生産したと考えられる製鉄遺跡が、古代を中心に60遺跡程確認されています。
製鉄遺跡を調査すると鉄滓と呼ばれる製鉄操業で排出された製鉄関連遺物が、大型トラックの荷台分ほど出土します。例えば、1997年~1998年に発掘調査が実施された大津市の源内峠遺跡では14トンもの製鉄関連遺物が出土しました。以前は、製鉄関連遺物は「鉄滓」として同種・同類のものとして一括りに把握され、整理調査方法に方向性を見出しにくいものとして取り扱われていました。
一方、製鉄関連遺物の理解は、他の種類の遺跡のように、各遺物の個別資料のデータ提示のみで良いという性格のものではありません。つまり、理化学的な分析も含め、総合的に製鉄関連遺物を調査しなければならず、そのノウハウについては、はっきりとした方向性を見出しにくい時代が続き、試行錯誤を繰り返してきたという経緯があります。
そうした中で、1990年代後半頃から製鉄遺跡の発掘調査現場では、原料である鉄鉱石や生産物である鉄塊系遺物を効果的に抽出するために強力磁石が使用されるようになりました。滋賀県内の製鉄遺跡の調査で強力磁石が使われるようになったのは、滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会によって実施された大津市源内峠遺跡の発掘調査あたりからではないでしょうか。
強力磁石を使用することによって、鉄塊系遺物、鉄鉱石、磁着性遺物などを効率的に回収することが可能となりました。回収された鉄塊系遺物は、できた生成鉄の大きさを推定するのに有効で、更に金属学的分析をすることにより錬鉄・鋼鉄・銑鉄など生成鉄の用途の類推が可能です。生成物の用途を類推することにより遺跡で生産された鉄の供給先の想定も可能となります。
また、回収された鉄鉱石は肉眼観察により、鉄鉱石の質、脈石の色などの要素を知ることができます。そのうえ金属学的分析をすることにより、鉄鉱石が採掘された鉱山の想定や、原料の鉄鉱石が生成鉄に及ぼす影響なども想定することができるようになりました。
強力磁石の製鉄遺跡調査への導入は、製鉄遺跡の調査の迅速化、効率化はもとより、製鉄遺跡の調査成果を格段に向上させ、製鉄関連遺物の管理活用にも大きく貢献することとなりました。まさに逸品と言えるのではないでしょうか。
(大道和人)