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調査員のおすすめの逸品 №345《滋賀をてらした珠玉の逸品⑳》黄金色に輝く皿の正体は?ー佐和山城跡の秤の皿ー

彦根市

滋賀県には数多くの城跡が存在しますが、当協会ではこれまでに戦国時代の城から江戸時代の城まで、県内各地の城跡で発掘調査を行ってきました。平成30年からは国道8号バイパスの建設工事に伴って彦根市の佐和山城跡で調査を開始し、現在も継続中です。調査地は佐和山の東麓に位置しますが、その大部分は城下町があったとされる区域であり、城下町の姿やそこで暮らした人々の生活の様子が少しずつ明らかになってきています。
佐和山城と言えば豊臣政権下で活躍した石田三成の居城として、全国的にもよく知られています。佐和山城に限らず”城”と言うとどうしてもその城に関わる武将に注目が集まりがちなのですが、城下町部分の調査を行ってきた調査担当者としては、城下町の姿やそこで営まれた生活の様子にも関心が集まればいいなと思っています。そんな思いも持ちながら、今回は城下の暮らしを垣間見える逸品をご紹介したいと思います。

佐和山城跡出土の秤の皿
佐和山城跡出土の秤の皿

この秤の皿は佐和山城の大手口近く、城下町のメインストリートである「本町筋」沿いに展開する町屋の石組み井戸から出土しました。3年前の夏のことだったと記憶しています。石組み井戸の中を掘っている作業員さんから「変わったもの出たよ!」と呼ばれ井戸まで駆けつけました。見てみると直径5㎝程度の金属でできた光り輝く小さな皿状の物があります。しかし、普通の皿とは違う特徴が…。皿の上部には小さな穴があいていて、そこには先端がフック状になっている金具が付けられていることから、「これはちょっと特殊な遺物だな」という印象を持ちました。その日からしばらく類例を探したり、知り合いに尋ねたりと、この皿の正体を探っていたところ、学生時代の後輩から有力な情報を得ました。「秤の皿に形が似ている気がします!」まさに目から鱗が落ちた瞬間でした。
早速、棹秤(さおばかり)や天秤の皿の画像を検索してみると確かにそっくりです。遺跡で出土した事例にあたってみると、大坂城跡、堺環濠都市遺跡(大阪府堺市)、大友府内町跡(大分県)など、佐和山城跡のものとおおよそ同じ時期の出土例が確認できました。ただ、皿が出土したのみで付属品は出土していないため、秤は秤でも天秤の皿なのか棹秤の皿なのか、現在でも結論は導けていません。また、その用途や持ち主についても明確な答えは出せていないため、まだまだ謎が残る遺物です。大きさからみて、持ち主として考えられるのは薬士(くすし:現在で言うところの医師)、両替商といったところでしょうか。いずれにせよ、城下町に暮らした人々の生業を物語る逸品として評価できます。
ちなみにこの皿は化学分析を依頼したところ、真鍮(しんちゅう)製であることが明らかとなっています。真鍮とは銅と亜鉛の合金であり、別名黄銅(こうどう)とも呼ばれ、その名のとおり黄金色をしていて見栄えがよく、純銅よりも加工しやすいという特徴をもちます。先述した大坂城跡などの皿はいずれも銅製であることからみると、同時代の資料としては珍しく、真鍮製品の広がりを考える上でも重要な事例だと言えるのではないでしょうか。
現在、滋賀県埋蔵文化財センターで開催中の「滋賀をてらした珠玉の逸品-スコップ歩んだ発掘50年史―」展(会期:2022年11月18日まで:土日祝休、9/4までは無休)にお越しの際はぜひ、佐和山城の秤の皿にご注目ください!
(山口誠司)

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