新近江名所図会
新近江名所圖会 第187回 卯建のあがる風景
(近江八幡市新町界隈)
現在では、ほとんど聞くことがなくなりましたが、「うだつを上げる。うだつが上がらない」という言葉があります。
この「うだつ」とはいったい何なんでしょうか。漢字では、「梲」とか「卯建」「宇立」などが用いられ、「うだち」とも言うようです。建築用語の一つで、梁の上に立てて棟木を支える短い柱のことや、隣家との境、つまり建物の側面にあたる妻壁を屋根より一段高くして小屋根をかけた部分を指します。用途としては、防火の役割もさることながら、装飾的意味合いの強いものです。装飾というものは、建物にあって必ずしも要る物ではないのです。つまり、江戸時代から明治にかけて造られた商家が、富裕になり余裕がなければこの「卯建」を家に取り付けることができなかったことから「うだつを上げる。うだつがあがらない」と言うようになったのです。
「卯建」というものは、古い町並みが残る所へ行けば大概見ることができますが、今回は滋賀県内で「うだつ」がみられる近江八幡市新町界隈を紹介します。連日、観光客で賑わう八幡堀の南に広がる八幡の旧市街地は、縦12筋、横4筋の碁盤目状の区画を持っていて、鍛冶屋町・博労町・大工町・畳屋町・魚屋町などの町名が今も残っています。国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された新町通りや永原町通りには、商家の邸宅や土蔵が建ち並んでおり、写真1・2にみるような「卯建」が上がっています。
ここで面白いものを見つけました(写真3)。なんと洋風。しかも南欧風の「卯建」です。写真1の重要文化財に指定されている旧西川家住宅の向かいにありました。和と洋のコラボレーションでちょっとオシャレかもしれません。そして,この旧市街地から離れますが、近江八幡消防署の屋根にも造り付けられています(写真4)。防火という意味からでしょうか。さすが近江八幡というところです。
周辺のおすすめ情報
近江八幡旧市街地の池田町には、大正年間にヴォーリズによって設計・建築された洋風住宅が並んでいます。江戸を感じる和の建築と近代の洋風建築がこのように近い場所で同時に見ることができるところはめったにありません。これも近江八幡の魅力の一つです。
アクセス
JR近江八幡駅より 近江鉄道バス 八幡市内循環線「新町」下車
(内田保之)
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