新近江名所図会
新近江名所圖会 第320回 「ウサギとカメ」の学びの館-豊郷町旧豊郷小学校
豊郷町旧豊郷小学校は、テレビアニメ「けいおん」ゆかりの地として人気のある場所です。「けいおん」は、私立桜が丘女子高等学校の軽音部を舞台とした青春テレビアニメで、2009年から2010年にかけて放映され、アニメの舞台をめぐる聖地巡礼の先駆けとなりました。その私立桜が丘女子高等学校のモデルとなった場所が、豊郷町の旧豊郷小学校です。
旧豊郷小学校校舎は登録有形文化財建造物です。登録有形文化財の制度とは、平成8年にできた比較的新しい文化財の保護制度です。その登録の条件は50年を経過した歴史的建造物で、一定の価値・評価を得たものを文化財として登録する仕組みです。届出制という緩やかな規制を通じて後世に保存が図られ、活用することが比較的行いやすい制度です。
既に全国で10,000 件を超える建造物が登録されており、滋賀県でも400件を超える建物が登録されています。著名なものとしては観光地ともなっている長浜市の黒壁ガラス館本館(旧第百三十銀行長浜支店)や改装されレストランとしても使われている大津市の旧公会堂などがあります。意外なところ(個人的な感覚ですが・・・)では滋賀県庁舎本館や近江神宮内の建物なども登録されており、寺社仏閣のような指定文化財とは雰囲気が異なります。
登録有形文化財建造物の大きな特徴は、現在も使用や利用されている点だと思います。身近な建造物や地域に親しまれているランドマーク的な建物であったり、和洋折衷の造られた時代の特色をよく表わした独特のものであったりして、今風に言えばインスタばえする建物が多く含まれています。
旧豊郷小学校では校舎や構内の酬徳記念図書館、講堂も登録されています。昭和12年(1937年)に建てられた建物で、平成25年(2013年)に登録されました。旧中山道に面した場所に建てられた、鉄筋コンクリート造2階建、建築面積1,879㎡、中央部を3階建の塔屋として正面に車寄を持つ、モダニズムを基調とした左右対称の威風堂々とした外観です。
◆おすすめポイント
旧豊郷小学校校舎は、卒業生である古川鉄治郎氏(伊藤忠商事および丸紅の前身にあたる伊藤忠兵衛商店専務)の寄附をもとに、ヴォーリズの設計によって建設された建物です。
外観もさることながら、ぜひ見ておきたいものが構内の階段の手すりに施された「ウサギとカメ」の彫刻です。小学校ですから当然、実際に小学生がこの建物で生活していたわけですが、その小学生に向けて、有名なイソップ童話の説話が示すカメのように「こつこつと努力して成功してほしい」という古川鉄治郎氏とヴォーリズの願いがこめられたものと言われています。その造られた経緯についても感銘を受けますが、単純に階段の手すりのウサギとカメの彫刻はどこかユーモラスで、親しみやすい素敵な造形です。小学校といえば近年、姿を消しつつある二宮金次郎像が「このように育ってほしい」と願いを体現する造形の定番でしたが、この「ウサギとカメ」は、意匠としても小学校の階段の手すりにマッチしているうえ、出資者をはじめとした地域の人の願いまで込められていて、その発想にはただただ感服するばかりです。
◆周辺のおすすめ情報
旧豊郷小学校の周辺は、旧中山道沿いに見所が点在しています。豊郷町は近江商人の発祥の地の一つで、現在の総合商社伊藤忠商事、丸紅の創業者伊藤忠兵衛がその代表格です。「先人を偲ぶ館」では、豊郷町ゆかりの商業人が紹介されています。
旧豊郷小学校内の酬徳記念館には豊郷町観光案内所がありますので、そこで情報を集めることをお勧めします。
◆アクセス
【公共交通機関】JR琵琶湖線近江八幡駅から近江鉄道に乗り換え豊郷駅下車、徒歩10分
【自家用車】名神高速道路湖東三山SIC下車15分、駐車場あり
(堀真人)
所在地:滋賀県犬上郡豊郷町石畑