新近江名所図会
新近江名所圖會 第211回-近江真綿(その2)
前回(第210回)をうけて、今回は真綿作り体験の様子をお話しします。
このたびお邪魔した「北川キルト縫工」の工房では、大きい布団用の真綿ひきの作業をやっておられ、四人がかりで汗だくで作業をされていました。その横で膝掛けサイズのちいさなお布団?用の真綿ひきを北川さんの奥さんと一緒に実際にやらせてもらいました。角真綿の四隅を向かい合って2人で2ヶ所ずつ持ち、2人で一斉に引っ張ってのばし広げます(写真1)。最初はただ引っ張るだけだからさほど難しくないと思いました。しかし、実は均等にひろげなくてはならず、実際にやればやるほど、意外と難しいことを実感しました。膝掛け二枚を作る分だけで、とても面白かったのですけれども、うまくできたかどうかは疑問です。ガーゼ生地のカバーでくるみ、仕上げに四隅とまん中に黄色い糸で奥さんが止め縫いをしてくださいました。「真綿は洗えんからね、外側を好きな布をかけて使ってね」と言われました。これで膝掛けの完成です。真綿はへたらないので、木綿わたの布団と違って打ち直す必要ありません。もっとも、長年使ってくたびれたら多少真綿を足すことはあるそうです。
つぎに、この角真綿を繭から作るところを是非見たいと奥さんにお願いすると、炊いて冷凍してある(最近は冷凍してあるらしい)繭で、繭むきを実演してくださいました。ぬるま湯を張った木のたらいに繭を浮かべます。水の中で繭を開き(写真2)、中の蛹を出して、ぎゅっぎゅっとのばしながら(写真3)、左手の母指以外の指に掛けます。同様の作業を繭5個分くらい繰り返します。これを、今度はたらいに立てかけた下馬という桧製の木枠に引っかけて四角くのばします(写真4)。この繭5個分ほどで一手がけ、その一手がけを4枚重ねて角真綿一枚になります。
奥さんの作業を見ていると簡単そうでした。でも、ほんのちょっとやらせてもらっただけですが、なんだかとても難しく、ちっとも上手くできません。とりあえず、数個やってみただけですが、炊いた繭の独特のにおい、中の蛹のにおいを実感しました。手に付いたにおいは後までなかなか消えませんし、なにより均等にうまい具合にのばせないのです。糸が切れそうでこわごわやってました。奥さんは「大丈夫、糸はちゃんとつながってる。薄いところや穴が開いたようになってもちゃんとつながってるから破れない」と諭してくださいますが、これもかなり大変な作業だと痛感しました。まず、どこから繭を開いたらいいかもよく分からないし、個々の繭によって扱い方が違うのです。
もともと真綿作りは製糸に向かない屑繭の利用法でもあるので、原料繭として、二匹一緒の繭・穴あき繭・出殻(成虫が出た後)・奇形・虫食いなど様々な状態の繭を使います。だから、繭むきは一つ一つを人の目で見て手で確かめることが必要なのです。奥さんが「様子見ながら、加減しながらね」とおっしゃるように、微妙な感と技術を要する作業です。たしかに、これだと機械化できなかったはずです。
本当に貴重な体験をさせてもらったうえ、自分で作業したモノを持って帰れて、大変満足しました。膝掛は大事に使わせてもらいます。北川さんはじめ作業してらっしゃった方々はにこやかに迎えていただき、とても親切にしていただきました。本当にありがとうございました。
できた膝掛けは二枚あるのでちょっと嵩張りますが、とても軽いのです。この日はそのあと醒ヶ井から下丹生辺りを散策したのですが、担いだままでも平気でした。
帰宅して真綿のことを母に話したところ、かつてうちには真綿の布団があったことが判明しました。そういえば祖母がとても大事に愛用していた事を思い出しました。それは紫色の掛け布の布団で、母曰く、掛け布も絹でパラシュート生地(化繊の良いのがなかった頃は絹製)の再利用の布だったそうです。そのお布団をたまに使わせてもらうと、とても軽いけど体になじみ、暑すぎず寒すぎず、とても気持ちよかったのを覚えています。あらためて天然素材・絹のすばらしさを実感し、こうした貴重な技術が失われないことを願うばかりです。最後に真綿の作り方をおさらいして、お話しを終わります。
*真綿の作り方
①釜で繭を三時間程炊く(練り)→②すすぎ→③繭ちぎり→④繭むき→⑤漂白→⑥干す
*角真綿は日本独特の製法。中国産などは袋真綿という帽子のような形状。日本でも古くは袋真綿であったらしく、江戸時代の浮世絵にも袋真綿を作っている図がある。その後「ボンサン」という大砲玉様の道具にかぶせて引き下げてつくる方法にかわり、つづいて下馬を使った角真綿に移行する。
〈行き方〉
[北川キルト縫工] 米原市多和田1046
tel.0749-54-0227(体験・見学は事前申し込み必要)
米原駅よりタクシーで約15分
米原ICより車で約10分(バスは多和田方面には出ていません)
◇近隣のおすすめスポット
[ローザンベリー多和田]
近年人気のある体験型観光農園。レストラン・ショップもあり、農作業、クラフト、パン作り、BBQ等、様々な体験ができるほか、催しものもあります。真綿つくりはマニアックするという向きにはこちらがおすすめかも・・。
(小竹志織)