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新近江名所図会

新名所圖會第230回 見えないものが、見えてくる?-中山道はじめのいっぽ- 

草津市
写真①
追分道標と草津川マンポ
写真②
旧中山道(草津市渋川)
写真③
「渋川:風景の記憶絵」の看板

近江国は交通の要衝と言われます。江戸時代に、五街道のうち二つもの街道が通っていたことは、その象徴といえるでしょう。今回はその一つ、中山道の一部分をご紹介いたします。
中山道は、江戸から京までといわれることもありますが、本来は東海道に合流する草津まで。つまり、草津宿が西の起点です。草津宿は第32回で紹介されていますので、今回は追分道標からスタートしましょう。

東海道が草津川に行きあたるところから始まるのが、中山道です。草津川は、江戸時代に急速に天井川化しましたが、明治19年に「草津川マンポ」と呼ばれる隧道(トンネル)が掘られ、今は天井川の下をくぐれるようになっています。追分道標はマンポの入口脇にあります。マンポが掘られる前は、堤防を登り、川の中の小さな木橋を渡っていたそうです。平成14年に新草津川が完成したので、草津川は廃川となり、堤防も一部を除いて撤去することになりました。今はその工事中。もうしばらくすると、このあたりの風景は一変しそうです。
マンポをくぐり抜け、アーケードのあるナカマチ商店街をまっすぐ行くと、JR草津駅への進入路サンサン通りに出ます。この道の中央分離帯に、一里塚の跡があります。横断歩道をわたると渋川商店街です。ここは、市街化の進む草津駅周辺でも、まだまだ古い街道の雰囲気を残すところ。畳屋さん、和菓子屋さんなど、昔ながらの店構えが続きます。

途中、光明寺の駐車場前に「渋川・風景の記憶絵」の大きな看板があります。「記憶絵」とは、渋川地区の方々が、古写真とお年寄りからの聞き取りに基づいて、記憶にある昔の地区の様子を、四季織り交ぜて屏風絵に仕立てたもの。この屏風は、学校や公民館、博物館などで時々展示され、小学生の地域学習にも利用されています。街道にある看板はその写しですが、人々の記憶に残る町を、変貌をとげる実際の町中に置いて見るというのは、なかなか面白い試みです。

写真④
伊佐佐神社

さらに街道を進み、渋川村の氏神である伊佐佐(いさざ)神社を右手に見て、JRを越える高架道の下を抜けると、店頭に犂を展示している畳屋さんがあります。街道からはずれ、店の手前を左手に入ると、JR線路下の隧道「渋川マンポ」に至ります。ここはかつて、人が歩いて通るのがやっとの高さしかなく、自転車では体をかがめて勢いをつけてくぐらなければならない、「勇者のトンネル」でした。しかし、危険極まりないため平成18年に改修され、昔の面影はもうありません。

中山道は、畳屋さんの前の道をさらにまっすぐ進み、JRの線路で分断され一旦途切れます。住宅の中を迂回して、線路下をくぐって西側へ出たところの右手が中山道のつづき。これを進み、葉山川橋を越えたところに駐車場があります。江戸幕府により製作された『中山道分間延絵図』によると、このあたりが中沢村の立場(休憩所)で、第136回に紹介のある東海道六地蔵・和中散本舗(国指定史跡名勝)の出店があったようですが、今はあとかたもありません。中山道の草津市域部分はここで終わりです。追分道標からここまで1.8kmの道のり。この先、街道は栗東市を経て守山宿へと続きます。
さて、スタートした時は、街道筋に残されたものを探し当てに行くつもりでしたが、振り返ってみると、失われた風景を掘り起こす旅になったようです。一里塚、立場の出店など、多くのものが街道からは失われてしまいましたが、地図を片手に現地に立ち、在りし日の風景を心の中で再構築する作業は、スコップを片手に遺跡を発掘するのと、どこか通じるものがありました。街道ウォークの面白さは、こんなところにもあるようです。

おすすめPoint

写真⑤
飛び出し「しぶはなちゃん」

おすすめは、街道沿いの角々にいる「しぶはなちゃん」。滋賀県は飛び出し坊やの発祥地ということで、各地に特色ある坊やがいますが、ここ草津市渋川地区のものは、毎年9月13日に伊砂砂神社の灯明祭で奉納される渋川花踊りの踊り子をかたどっています。その可愛らしさが運転者の注目を引いて事故防止に一役買うでしょうし、地域の伝統と文化を物語る、街道筋にぴったりの姿が一見の価値あり。いったいいくつ立てられているのか、歩きながら数えてみるのもよいでしょう。ただし、気を取られての交通事故にはくれぐれもご注意下さい。

周辺のおすすめ情報

中山道から少し外れますが、今回の終点、葉山川との交差地点から、JRをくぐって川をさかのぼったところ、栗東市中沢に菌(くさびら)神社があります。小さな神社ですが、江戸時代に再建された本殿は、栗東市指定文化財です。毎年5月5日に行われる例大祭では、なれずしが供えられますが、それはよくあるフナズシではなく、近くの池で採れたじゃこ(雑魚)のなれずし。ただ、最近はじゃこが採れなくなり、購入したワカサギを使っているそうです。また、この神社はその名から、きのこ愛好家に聖地として注目されています。菌神社に隣接するのが下鈎遺跡。弥生時代の大型建物や最小の銅鐸が出土して注目を集めました。道路に面したマンションの横に、案内の標石が建てられています。

(國分 政子)

アクセス

【公共交通機関】
◇中山道・草津追分道標までは、JR琵琶湖線草津駅から徒歩6分

◇中山道・中沢の立場跡までは、JR琵琶湖線草津駅西口から「まめバス」に乗車、葉山川橋停留所下車すぐ

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