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筒井千軒惟喬親王像

新近江名所図会

新近江名所圖会 第158回 木地師の村 その2

東近江市
(東近江市君ヶ畑町)
筒井千軒惟喬親王像
筒井千軒惟喬親王像

東近江市の奥永源寺小椋谷は木地師の村。前回は蛭谷の筒井神社の紹介をしました。今回はその続き。

筒井千軒惟喬親王御廟
筒井千軒惟喬親王御廟

まず、筒井神社の旧跡の筒井千軒に行ってみましょう。筒井神社から登るとすぐに道は二手に分かれます。右に行けば君ヶ畑。左に行けば筒井峠を通り多賀大社、もしくは百済寺に行くことができます。筒井千軒はこの筒井峠にあります。狭い道を進むと急に道が広くなり、左手に鳥居が見えます。この鳥居の奥が筒井千軒と呼ばれた場所で、現在は惟喬親王の御陵となっており、親王の大きな銅像と慎ましやかな墓石が木立の中に佇んでいます。

道を戻り、君ヶ畑に向かいます。君ヶ畑は、御池川沿いの最奥の集落ですが、小椋谷の中では最も開けた印象を受ける、山里とは思えないぐらい明るい集落です。集落の入り口からは神奈備型の藤原岳が秀麗な姿を見せています。いかにも山の神に「護られている村!」というオーラを感じます。

木地の乾燥
木地の乾燥

君ヶ畑では、今も木地師の末裔が工房を営んで居られます。工房を覗くと、木地師が轆轤に向かい黙々と材を削っています。さすがに轆轤は電動ですが、削る刃物は昔と少しも変わらない、しかも全て手作りの道具です。工房の大半を占めているのは木材の乾燥場です。荒削りした材を最低でも5年、良い材はもっと乾燥させるそうです。工房には様々な種類の材が鏡餅のように積み上げられており、現代芸術のオブジェを見るような感じがします。直売もされていらっしゃるとのこと、ニスを塗らない木肌の温もりをぜひ手に入れて下さい。

君ヶ畑大皇木地祖神社本殿
君ヶ畑大皇木地祖神社本殿

工房を失礼して道を歩くと、左手に杉の巨木の林が見えてきます。この林の中に鎮座するのが惟喬親王を御祭神とする「大皇木地祖神社(おおきみきじそじんじゃ)」です。個人的には「きじおや」とよびたいのですが・・・。参道を登ると千年はゆうに超えているのでは?と思える杉達が出迎えてくれます。「人間なんて、なんて小さな存在なんだ」と素直に思えてしまいます。巨木の間を少し進むと太鼓橋があり、広い神社の境内に入ります。立派な拝殿と石垣の上に鎮座する本殿。神社というのはこうでなければなりません。数ある近江の神社の中でも、お気に入りの神社の1つです。

君ヶ畑高松御所
君ヶ畑高松御所

巨木のエネルギーと神社空間の力を頂いた後は、神社の上手にある金竜寺を参拝します。ここは、惟喬親王が幽居された高松御所とされ、門をくぐると「御所」の扁額を掲げた立派な本堂が出迎えてくれます。明るい境内を散策しながら左手を見上げるとなにやら建っています。登ると、ここにも惟喬親王のお墓が。小椋谷だけでも、惟喬親王のお墓が3カ所もあるのです。親王を自分たちの守り神として崇敬し、そして親しみを込めて接してきた山里の人達の思いが伝わってきます。

君ヶ畑惟喬親王墓
君ヶ畑惟喬親王墓

白洲正子はこの心象を「自然の樹木を崇めるだけでは、何か不安な、物足りない感じが彼らにはあって、名もない神像に、人間の魂を込めたくなったに違いない。だが、山奥にはそれにふさわしい人物はいず、神代の物語も伝わってはいない。そこに突然現れたのが、流浪の貴公子である。神話はたちまちにしてなった。」
木地師の村には、山を、木々を、カミとし、さらに、ここに人の姿を重ねて崇め、生活を委ねてきた、少し前の日本人なら誰でも感覚的に理解できる心象風景が今も漂っています。
やはり、カミとして降臨するなら、こういう所を選ばねば。合掌。

アクセス

【公共交通】近江鉄道八日市駅から近江鉄道バス市原線永源寺支所行きで終点下車、政所線に乗り換えて君ヶ畑バス停下車、徒歩10分
【自家用車】名神高速道路八日市ICより国道421号線を東へ約1時間

(大沼芳幸)

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