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荒神山と曽根沼

新近江名所図会

新近江名所圖会 第172回 うみ風渡る荒神山

彦根市
(彦根市日夏町)
荒神山と曽根沼
荒神山と曽根沼

現在公開中で話題の映画「偉大なる、しゅららぼん」(原作:万城目学)では、滋賀県彦根市が舞台の中心となっています。映画には、琵琶湖に棲む龍神の摩訶不思議な力を借りることができる一族、日出家と棗(なつめ)家の人たちが登場します。このうち日出家の人たちは、彦根城に住んでいるという、まるで現代のお殿様みたいな設定です。私もこの映画を観たのですが、自分が住んでいる彦根の町の風景が映画のスクリーンに映し出されると、「あ、このシーンの風景はあそこだ!」と気がついて、なんだか嬉しくなりました。映画のロケ地は彦根城・彦根駅前などいくつかありますが、そのうちのひとつが荒神山にあります。今回はこの荒神山をとりあげて、紹介したいと思います。

荒神山からの眺め
荒神山からの眺め

荒神山は、琵琶湖の湖岸のほど近くにあります。標高は284.1mあり、平地からいきなり山が立ち上がっているような印象を受けます。湖東の平野には荒神山のような小さな山が点在していますが、これらの山の多くは、恐竜たちが生きていたころ、火山が噴火して、その時に噴出した火山灰が冷えて固まった岩で出来ています。近江八幡市にある沖島や長命寺山・八幡山なども、同様の火山活動の名残と考えられています。荒神山の西側には曽根沼があります。曽根沼はかつて現在の2倍程度の大きさがありましたが、南半分が干拓されて現在の大きさになっています。

荒神山からの眺め-琵琶湖
荒神山からの眺め-琵琶湖

荒神山は、麓から山頂まで自動車道が通っていますので、車で気軽に山頂まで登ることができます。もちろん歩いて登ったり、自転車で登ったりするのもOKです。お天気の良い日には、山頂に登る途中で、琵琶湖はもちろん、彦根城や湖西の山々などが見渡せ、なかなかよいウオーキング・コースです。山からのぞむ琵琶湖の景色がすばらしいことから、彦根市が指定する彦根八景「うみ風渡る荒神山」に選ばれています。山頂付近にある荒神山神社には、火や竃の神様を祀られていますが、ここの神楽殿で映画の主人公が修行を行うシーンが撮影されました。神楽殿は、映画に関連するスタンプラリーのポイントになっています。

おすすめPoint

荒神山古墳
荒神山古墳

さて、古代の人にとって荒神山は特別な場所だったようです。荒神山に残された遺跡で最も有名なものは、荒神山古墳です。この古墳は今から1600年くらい前の4世紀末頃に築かれたと考えられ、全長は124mと県内の前方後円墳では第2位の大きさを誇っています。3段のテラスには、たくさんの埴輪が並べられ、さらに表面には葺石(ふきいし)と呼ばれる石が張り付けられていました。今では埴輪の多くは失われ、葺石は土や草で覆われていますが、古墳の形・段ははっきりとわかります。県内でも大型の前方後円墳であり、歴史的にも重要なことから、平成23年(2011)に国史跡に指定されました。
荒神山古墳が史跡に指定された理由の一つに、築かれた位置があります。古墳は、荒神山神社裏側の細い道を北に向かって下り、山の尾根から琵琶湖側にやや下がったところにありますが、この位置は琵琶湖側からよく見えるのです。つまり、琵琶湖の上を船で行き来する人たちから、最も効果的に見えるところに大型の古墳を築いたことになります。今は木々に覆われ、琵琶湖から見ることはできませんが、築かれたばかりのころ、琵琶湖を船で行き交う人たちの目には、とても立派なお墓が映ったことでしょう。3段に築いた大形の前方後円墳は、当時の政治・権力の中心であった大和との関係を強くうかがわせること、古墳の立地が水上交通を意識していると考えられることから、この古墳に葬られた人物は、大和と深いつながりをもち、琵琶湖の水上交通に深くかかわった人物と考えられています。
寒い冬がそろそろ終わり、花のつぼみも膨らんできました。映画を楽しんだ後に、撮影のゆかりの場所に出かけてみるのはいかがでしょうか。

周辺のおすすめ情報

荒神山公園・曽根沼緑地公園

荒神山神社
荒神山神社

荒神山の東西には公園があります。東側の荒神山公園には、スポーツを楽しめる施設や、小さなお子さんも遊べる彦根子供センターがあります。西側には曽根沼緑地公園があります。こちらにも遊具などがあり、ご家族で楽しめます。

アクセス

【公共交通機関】JR琵琶湖線河瀬駅から西北西に徒歩40分。あるいは近江鉄道バス「中沢」下車、徒歩20分。
【自家用車】名神高速彦根ICから西南西方向に車で約30分。

(加藤達夫)

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