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新近江名所図会

新近江名所圖会 第47回 カミの宿る岩-長命寺の磐座-

近江八幡市
近江八幡市長命寺町
長命寺伽藍と六所権現影向石
長命寺伽藍と六所権現影向石

西国観音巡礼第31番札所長命寺は、様々な祈願のため、善男善女が参拝する名刹です。
琵琶湖を望む長命寺山の中腹にあり、かつて白洲正子が「近江で一番美しいところ」と絶賛した景勝地でもあります。800段にもおよぶ長い石段を登り詰めると、やっと本堂の軒下に辿り着きます。
長命寺に関しては、様々なガイドブック等で紹介されていますから「今更『名所図絵』でも無かろう」と思われるかも知れませんが、少しおつきあいを。

おすすめPoint

長命寺が建つ長命寺山は、岩山で、境内のあちこちに巨巌が露出しています。その中でも、とりわけ目を引く巨巌が、ここで紹介する六所権現影向石(ろくしょごんげんようごうせき)と修多羅岩(すたらいわ)です。

◆六所権現影向石

長命寺・六所権現影向石
長命寺・六所権現影向石

六所権現影向石は、本堂の背面の斜面にあり、巨巌が、本堂屋根に覆い被さるようにそそり出ています。今にも崩れ落ちはしないかと不安になる程です。
六所権現影向石という難しい名前は、「天地四方を照らす岩」という意味で、長命寺を開闢したと言われる武内宿禰が、この岩に長寿を祈願し、360才まで長生きすることができたという、長命寺の寺名の由来ともなった岩です。

◆修多羅岩

長命寺・修多羅岩
長命寺・修多羅岩

修多羅岩は、武内宿禰を祀る護法権現社の背面にある巨巌で、衝立のようにそそり立つ四角な岩で、その中央に走る割れ目から、棒状の岩が顔をのぞかせています。「修多羅」とは、天地開闢、天下太平、子孫繁栄等を示す目出度い言葉で、この岩自体を武内宿禰の本体とする信仰もあります。

古来、日本人は山川草木、森羅万象にカミが宿ると信じてきました。所謂アニミズムの信仰です。
植村花菜さんの「トイレの神様」で「トイレにはそれはそれは綺麗な神様が居る」と歌っている世界ですね。ありとあらゆる所に神が宿る。その中でも、巨大であり、変わった形(往々にして少々エロチックな形)をした岩は、神の宿る岩すなわち「磐座」として信仰されてきました。
近江は、古歌の枕詞に「さざなみの」と詠まれる水の国であると同時に「石はしる」とも詠まれる、石の国でもあります。そして県内のあちこちに、地元の人達の篤い崇敬を集める磐座があります。
長命寺の六所権現影向石も、修多羅岩も、もともと長命寺山に棲まうカミが宿る磐座だったのでしょう。当然、長命寺の堂舎が建つ前から磐座はあり、おそらく麓、そして琵琶湖からも遙拝することができたでしょう。この磐座に対する素朴な信仰が徐々に変化し、やがて磐座を拝する社殿が建てられ、ここに神仏が祀られるようになると、信仰の対象が神仏に遷り、現在の寺観となったのです。
また、長命寺の境内には、太郎坊宮が勧請されています。この社もまた、何とも言えない霊気が溢れる磐座に囲まれ鎮座しています。長命寺に参ると、太古の力が身体に染み込んで来る、気配があります。パワースポットの名が相応しいところです。

周辺のおすすめ情報

長命寺の磐座を紹介しましたが、長命寺の見所は勿論磐座だけではありません。
本堂の前、太郎坊宮の前から見る景観も見所の一つです。遠く三上山、比叡山、比良連峰を見、足下まで広がる雄大な琵琶湖。琵琶湖に浮かぶ水茎岡山、沖島の光景は、絶景という表現しかありません。また、朝日から夕日に至るまで刻一刻と変化する光の情景は、浄土というに相応しい光景です。
勿論、長命寺に伝来する本堂、三重の塔を始めとする古建築、仏像類も見逃すことはできません。周辺に目を向ける余裕のない程、見所一杯の名所が長命寺です。

アクセス

【公共交通機関】JR琵琶湖線近江八幡駅下車、近江鉄道バス「長命寺行き」もしくは「国民休暇村行き」で約25分。「長命寺」下車
【自家用車】名神高速道路竜王ICから車で30分、駐車場あり


より大きな地図で 新近江名所図絵 第1回~第50回 を表示

(大沼 芳幸)

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