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新近江名所図会

新近江名所圖会 第93回 鈴鹿の山に歴史あり―百済寺南川遺跡―

東近江市
東近江市百済寺町

滋賀県は真ん中に琵琶湖、周囲を山に囲まれた、カルデラ状の地形となっています。西の比良山脈、東の鈴鹿山脈は、いずれも1,000m級の山々が連なり、広大な近江盆地のまわりにそびえたつ巨大な壁のようにも見えます。
このような巨大な壁に囲まれた近江の地ですが、古くより東西南北の文化の交差点として発展してきました。自動車が当たり前となった現在からみれば、わざわざ辛い思いをして山を越え、近江の地までやって来なくてもよいのでは?と思わなくもないのですが、昔の人々にとっては山越えなんて当たり前、障壁というわけではなかったようです。
昔の人が山を越えて近江の地に来ていたということは、何らかの痕跡、つまり遺跡があるのだろうな~、と以前より思っていたのですが、やっとそんな遺跡に出会いました。遺跡の名前は百済寺南川遺跡。調査員のおすすめの逸品No.16No.69の舞台となった遺跡です。
今から7年ほど前の平成17年の秋、百済寺南川遺跡の調査担当となり、現地にやって来ました。麓の集落との比高差が100m以上ある、標高360mのすごい山奥でした。「こんな所まで作業員さんたちは来てくれるのだろうか」という不安はありましたが、山作業に慣れた元気な方たちが来てくださいました。
試掘調査では土器などがみつかっていたのですが、とても遺跡があるようには思えない場所で、中世の遺物が散布する程度だろうと思いました。ところが、調査を進めていくと、弥生時代の終わり頃の土器がみつかりかりました。「え~!?なんでこんなところで?」  早速職場へ土器を持ち帰り、先輩方にみていただくと、やはり皆さん、「え~!?なんでそんなところで?」という反応でした。
さらに調査を進めると、竪穴建物が6棟みつかりました。竪穴建物が出てくる地点は、発掘する前から、自然地形とは思えない、不自然な半円形の平坦な地形の場所でした。

山中の不自然な平坦地
山中の不自然な平坦地

調査も後半に差し掛かったある日、休憩時間に山の斜面を見上げると、植林帯の中に複数の段が見えました。何だろうと思い斜面を登っていくと、発掘調査地と同じような、直径5m程の不自然な半円形の平坦地があちこちにありました。トータルステーションを担いでその数と位置を調べたところ、約10,000㎡の範囲に50箇所以上半円形の平坦地があることが分かりました。発掘調査はできませんでしたが、おそらく大半が竪穴建物の跡だと思われます。山の中は、平野と違って土砂の堆積が少なく、逆に流出していくため、大昔の遺構の形がほぼ残ったのでしょう。
思わぬ調査成果が得られたこともあり、報道発表することになりました。現地に直接報道関係の方々に来ていただくのは危険なので、公用車に同乗してもらい、現地を見ていただきました。「こうして実際に現地を見学すると、この遺跡のすごさがよく分かりますね。」という意見をいただきました。
立地のすごさは分かったのですが、遺跡の性格は謎のままです。交通や物流の中継基地的なムラ、山資源採取のためのムラ、弥生時代中頃~後半にみられる高地性集落、などなど、色々な可能性は考えられますが、未だ決定打は得られてはいません。
冒頭に述べたように、昔の人々は今の我々では考えられないほど山中で活動していたようなので、百済寺南川遺跡はその一端を示す遺跡であることは間違いないと思います。
この調査以来、私は山中に入る機会があると、ついつい不自然な地形や遺物を探してしまうようになってしまいました…。

おすすめPoint

関堤前の遺跡説明看板
関堤前の遺跡説明看板

百済寺南川遺跡へ行くには、東近江市百済寺町の北古屋の集落から延びる林道を登って行くことになります。林道入口はチェーンで封鎖されています。林道終点には調査の契機となった巨大な砂防堰堤があり、堰堤の前には百済寺南川遺跡の説明看板が設置されています。遺跡の重要性から、工事後に設置されたものです。看板には調査時の写真や実測図などが描かれています。看板のタイトルには、「百済寺遺跡」と書かれていますが、これは調査時の名称です。遺構の重要性や、対岸の中世寺院・百済寺と区別するために、新たに百済寺南川遺跡と命名されました。 。

周辺のおすすめ情報

百済寺南川遺跡調査状況
百済寺南川遺跡調査状況

百済寺南川遺跡の谷を挟んだ対岸には、中世より続く古刹の百済寺(国指定史跡)があります。戦国期に織田軍から攻撃されて焼き打ちに遭い、壊滅的な打撃を受けましたが、後に復興して現在に至ります。境内には190区画もの坊跡群が広がり、中世山岳寺院の面影を残しています。百済寺は湖東三山の一つで、秋になると見事な紅葉がみられます。

アクセス

【公共交通機関】近江鉄道八日市駅下車、タクシーで約15分
【自動車】名神高速道路八日市IC下車、国道307号経由で約50分(林道徒歩約15分)


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(重田 勉)

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