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新近江名所図会

新近江名所圖會 第245回 日本に唯一!?世にも珍しいキノコを祀る菌神社

栗東市

寒い冬の季節になると、あたたかい鍋料理が無性に恋しくなる日がありませんか?そんな鍋料理に欠かせないのは、シイタケ、シメジなどのキノコ類でしょう。今回は、そんなキノコを祀る神社、その名も菌(くさびら)神社を紹介したいと思います。

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菌神社参道
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菌神社拝殿
菌神社 本殿
菌神社本殿

菌神社は、栗東市中沢、東海道から中山道が分岐する草津宿の近辺に所在し、現在では閑静な住宅街の中にひっそりとたたずんでいます。菌と書いて「くさびら」と読み、中世の頃には「草平社」と称しており、「菌神社」と呼称されるようになったのは明治に入ってからだそうです。

景行天皇の頃、竹田折命(たけだのおりのみこと)が田植えをしようとしたところ、なんと一夜にして菌(キノコ/クサビラ)が一面に生え、それが上聞に達し、菌田連(クサビラタノムラジ)の姓を賜ったと伝えられています。その後、舒明天皇九年(637年)に勧請されたと社伝にはあります。
現在、市指定文化財となっている菌神社本殿は、正中二年(1325年)の造営後、元禄四年(1691年)に再建されたものですが、解体中の調査により、前身の社殿の部材が再利用されており、また棟には13世紀後半に推定される瓦が使用されていることも判明しています。このように、建立年代が明らかで、さらに中世の様相をも伝えられていることから、非常に貴重な文化財とされています。

さて、現代では当たり前のように食されるキノコですが、縄文時代にはすでに食べ物として知られるところだったようです。古代になると漢方薬の材料としても利用が広がっていき、飛鳥時代以降、キノコは様々な文献にも記載が確認されています。ときには和歌のなかに、ときには物語のなかに登場し、往年のひとびとにも親しみやすい食材だったことが思い起こされます。
現代の日本人に最も人気のあるキノコはおそらくマツタケでしょう。そんなマツタケはすでに古代から認知されていたようで、『万葉集』巻十の「高松のこの峯も狭に笠立ててみち盛りたる秋の香の吉さ」は、まさにマツタケを詠んだ歌といわれています。江戸時代には、庶民の間でもマツタケ狩りが流行する一方で、上等なマツタケは将軍家へと献上されることもありました。
ちなみに、キノコといえば、もちろん毒性を含むものもあります。そんな毒キノコの存在も昔から認知されていたらしく、例えば光る毒キノコの「ツキヨダケ」は、食すると数時間後から嘔吐し続け、手の先がしびれ、数日間の苦しみを味わうといいますが、平安時代末期の『今昔物語集』の中では、ツキヨダケで人を毒殺しようとした話も載っています。

そんな多種多様に愛されてきたキノコを祀る菌神社ですが、実はここ、日本で唯一のキノコを祀る神社とも言われています。身近でみつけた“日本で唯一”に思いを馳せながら、寒い冬にお約束の食事に舌鼓を打ってはいかがでしょうか。

木下義信

●参考文献
根田仁(2003)『きのこ博物館』八坂書房
大上建築研究所(1998)『栗東町指定有形文化財 菌神社本殿修理工事報告書』

●周辺のおすすめ
菌神社は、中山道の近隣に所在します。ここから中山道を2kmほど南下すると草津宿本陣へと至ります。その道中には、本殿が国の重要文化財に指定されている伊砂砂神社などもあり、中山道を散策しながら街道沿いの歴史を堪能してはいかがでしょうか。

●アクセス
公共交通機関 JR琵琶湖線栗東駅より徒歩20分 草津駅より徒歩25分

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