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新近江名所図会

新近江名所圖會 第272回 【パーソナルシリーズ 宿る処】 壱の出会い 「小石丸を呼ぶ木 多賀町大瀧神社境内」

多賀町
大蛇ヶ淵
大蛇ヶ淵
小石丸を呼ぶ木1
小石丸を呼ぶ木
小石丸(横)
小石丸
小石丸の岩2
小石丸の岩
スキャン_20171205
大滝神社の案内

筆者はもうかれこれ60年以上も人間をやっています。そろそろ飽きてきました。人間をやめて次を目指すとすれば、鬼か神しか思い浮かびません。どちらかというと鬼に魅力を感じるのですが、もう数年は勤めを果たさなければならないので、とりあえず、神様にでもなろうかと考えている今日この頃です。神様になるにしても、一応生身の人間ですから、「神になった」宣言だけではだめです。どうしましょうか?
ある日、私は悟りました。既存の神様(「かみさん」ではありません)から力を分けて頂き、その力を胎内に充満させた時、始めて神を名乗ることができると。では、既存の神様は何処にいるのか?普通に考えれば神社に鎮座していますが、これは、7世紀以降、仏教の影響を受けて迎えられた神様の姿であり、本来の神様とは性格を異にします。
では、本来の神様とは?私はそれは、自然に宿る気配、或いは自然そのもの。と、考えています。ではでは、その神に逢うには何処に行けばよい?自然の気配ですから、神様はその当たりに漂っています。でも、漂い続けるとさすがの神様も疲れてしまいますから、お休み処が必要になります。それを難しく言うと「依り代(よりしろ)」となります。では、どんな処に神様は依りつき宿るのでしょうか?それは目立った自然物が選ばれます。典型的なポイントが巨木(神木)や大磐(おおいわ)(磐座・いわくら))です。こんな所に行き、神様と会話し、神様をおだてて、その気にさせて、力を分けて貰えば、少し、神様に近づくことができそうです。
しかし、さすがの神様も、如何に私が善人であっても、気前よく全パワーをくださるはずはありません。どうすればよい?名付けて「塵も積もれば山となる作戦(塵山作戦)」しか在りません。ようするに、多くの神様に面会し、少しずつ力を頂き、それを積み立てたら、独立的神様になれるはずです。
ということで、近江の神様が寄りつくところを探し、その神様との会話を楽しんだ記録が、このパーソナルシリーズ「宿る処」です。すこしずつ神に変身する筆者の姿と合わせてお楽しみください。
第壱の出会いは、多賀町大瀧に鎮座する大瀧神社境内に立つ「小石丸を呼ぶ木」です。
犬上川が里に向かって流れ出る、その出口付近は、地形が劇的に変化し、激流を為しています。地元ではここを「大蛇ヶ淵」と呼んでいます。この名前のいわれはこう語られます。
「昔、犬神川の上流に人に災いをなす大蛇が棲んでいた。是を退治しようと日本武尊の長男、稲依別(いなよりわけ)は、愛犬小石丸とともに山中に分け入った。しかし大蛇は現れず、疲れ果てた稲依別は川の畔で眠りこけてしまった。その時、小石丸が激しく鳴き立てた。寝起きの悪い稲依別は「うるさい!」とばかりに、刀で小石丸の首をはねてしまった。すると小石丸の首は傍らの松の梢に飛び上がり、何者かと戦う気配がしたかと思うと、大蛇の首に噛みつき、川に落ち、流れてしまった。稲依別を狙う大蛇にいち早く気付いた小石丸が、稲依別に危機を知らせるために吠え立てたのだった。小石丸を殺してしまったことを大いに悔やんだ稲依別は、小石丸の同体を手厚く葬った。この時から、ここは大蛇ヶ淵とよばれ、小石丸に因み川は犬上川となり、稲依別は犬上氏の祖となった。」と。
地元ではとても愛されている神話ですが、他所から来たものにとっては、何ともやりきれません。小石丸は何故殺されなければならないのか?
そんなことを思いながら、境内を歩くと、杉の巨木が目に飛び込んできました。杉は、大蛇ヶ淵に面して立ち、二本の大きな枝を川に向かって広げています。そしてその前方には小石丸を祀る祠が建立されています。まるで稲依別が小石丸を呼んでいるように見えます。そこで、私が勝手に「小石丸を呼ぶ木」と名づけました。
この木に宿るモノに語りかけます。
「稲依別に殺された小石丸が余りにも可哀想。これはほんまの出来事?」
木に宿るモノが応えます。
「いや、ほんまは殺されてへんのや。大蛇は水の神。犬上川の水を田に入れたい下の人間が、川の神に祈り、水を採ろうとしたが、中々旨く工事が進まなかったんや。かなりの犠牲を出したらしい。なんとか水を採り、稲を植え稔りを貰った。川の水は稔りの水=稲の水=稲の神=いながみ=犬噛=犬上と変化して、犬神の話が生まれたんやけど、それでは面白くないし、江戸時代になって「忠」がもてはやされるようになり、小石丸が登場し、しかも主を護るために命を失う。ちゅう話になったんや。」
「小石丸は稲の神の象徴なんやね。」
「まあ、そんなところや。」
「折角、犬が神様になってるんやから、いっそ犬の護り神にもなってもらったらどうですやろ。」「お前、上手いこと言うな。そりゃええわ。小石丸と稲依別にはペットの護り神になってもらお。」
「ほな、あんたも如何にもなんかを呼んでいるような恰好やさかいに「小石丸を呼ぶ木」と名乗ったらどないでっか?」
「ええな、そうしよ。是が広まったらお賽銭も上がるし、わしにも何やらエエ事があるかもしれん。そうなったらわしも、神様のやりがいがあるちゅうもんや。」
「お前、ちょっと気に入ったから、わし力を少しやろか?」
「おおきに、有り難く貰いますわ。あんさんも末永く元気でな。また来るわ」

★ 神様ポイント10ポイント獲得

こんな事で、大瀧神社は犬の守り神として、ただいま売り出し中です。ペットと暮らす方々、是非大瀧神社にお参り下さい。

筆者の神様を目指す近江放浪は、まだまだ続きます。

大沼芳幸

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