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調査員のおすすめの逸品 No.13 過去の情報の詰め合わせ―空中写真―

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一度失われたものは二度と蘇ることはありません。しかし、正確に記録された資料は、失われた情報について、完全とはいえないながらも多くのことを私達に伝えてくれます。
そのひとつに「空中写真」があります。今回は、あまり知られることのないアイテム「空中写真」について紹介したいと思います。

金剛寺野古墳群空中写真
金剛寺野古墳群空中写真

ここで紹介する空中写真とは、航空機によって高度1800mの上空から地上を垂直に撮影した写真のことです。日本では、東京や大阪などの例を除くと、第2次世界大戦直後に占領軍が日本の国土を把握するために撮影した写真がもっとも古く、主権を回復してからは、旧建設省の地理調査所(今の国土地理院)の委託をうけた海上自衛隊が定期的に撮影を行っています。
空中写真は、地図とは異なり(例外も存在するが)ありのままの姿を撮影していることから、第2次世界大戦直後の荒廃した姿から、高度成長期そして現代の国土を逐次記録した貴重な資料といえます。ほ場整備(農地の区画整理)によって失われる前の条里地割や用水路、都市開発によって変容する以前の城下町、拡幅や付け替えによって昔の姿を失った街道など、空中写真は変容する前の景観を調べるためには欠かせない資料です。
それだけでなく、偶然に撮影された空中写真から、発掘調査を行うことなく、失われた遺跡を発見することがあります。たとえば、下の空中写真は旧秦荘町(現愛荘町)宇曽川右岸に存在した金剛寺古墳群を撮影したものです。この古墳群は昭和初年の記録から196基の円墳が存在すると報告されましたが、昭和30年代に行われた開墾によってほとんどが破壊されたため、一部の資料を除いて古墳の正確な配置や規模などの情報が不明のままでした。しかし、偶然にも空中写真によって開墾直前の状態が撮影されたため、群集墳のおおよその配置や規模がわかりました。

反射実体視鏡
反射実体視鏡

また、「実体視」という方法を用いると、土地の起伏や高さなどがわかります。正確に測定を行う場合は、写真にあるような「実体鏡」という器械を使用しますが、急いで確認したいときは目視で行う場合もあります。右にある円墳の画像は実体視ができるように配置しており、画像が合うと墳丘の高さや横穴式石室の開口部などがわかります。
このように、消滅した遺跡を偶然撮影した事例は、昭和30年から40年代の空中写真をみていると時々発見することがあります。
今回紹介した逸品「空中写真」からこのような遺跡を発見したときは、失くしたと思っていた手紙や本を見つけたような喜びを感じるのです。

(神保忠宏)

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