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オススメの逸品

調査員のおすすめの逸品 No.12 環頭太刀-北牧野2号墳-

高島市

「金ピカの出土品を掘り出す」発掘調査というとこんな言葉をイメージされる方も多いのではないでしょうか。

2号墳 環頭出土状況
2号墳 環頭出土状況

平成12年度に高島市マキノ町の北牧野古墳群で、2基の古墳を調査しました。調査の対象となった2基は、直径14~15m、高さ2mの円墳で、6世紀後半頃のほぼ同じ時期に、ほとんど接して築かれています。埋葬主体部は、ともに南の方向に入り口が開く横穴式石室です。そのうちの2号墳と呼んでいる1基は未盗掘で、環頭大刀(かんとうたち)が出土するなど副葬品が良好な状態で出土しました。
天井石は既に失われていましたが、石室内を掘り進んでいくと、奥壁に立てかけた状態で鉄製の大刀が最初に出土しました。大刀は錆に覆われていて、装飾は確認できる状態ではありませんでしたが、「ひょっとすると柄(つか)が腐食して真下に柄飾りが埋もれているのでは」という淡い期待を抱きつつ掘り進めました。すると程なく、金色に輝く龍が姿を現したのです。県内では4例目となる環頭大刀の柄頭が出土した瞬間でした。
龍は肉厚で、立体的に表現されています。また、龍を取り巻く環状の飾り(外環)の表面にも、意匠化された向かい合う2匹の龍が表現されています。外環の龍は、鱗の表現も龍の向きに合わせて揃えていて、中央の龍とあわせて精巧に作られています。
現地での調査を終了したのちに、科学的な分析を行いました。X線写真では、外環基部中央にX線透過率の高い箇所が確認できました。また、材質分析では、環頭外環と龍とでは検出できた元素が異なっていました。環頭外環では銅や水銀のほかにわずかに鉛が検出されましたが、龍の部分では鉛はほとんど検出されませんでした。これらのことから、外環と龍が別々に作られて接合されたものである可能性が高いとことがわかりました。

2号出土遺物
2号出土遺物

環頭部分は銅を主体とする合金のため錆化が著しく、表面を飾る金の残存状況は良くありません。材質分析では水銀が検出されていますが、これは表面の金が水銀アマルガムによる鍍金か、あるいは薄い金箔を水銀により貼り付ける方法がとられたことを示しています。環頭を詳細に観察すると、鱗を表現する円形工具の痕跡がくっきりと明瞭であること、外環基部(大刀の柄側)の金が徐々に薄くなることから、金箔を貼ったものではなく、水銀アマルガム法で鍍金したものでしょう。水銀アマルガム法とは、水銀に金を溶かした溶剤を表面に塗ったのち、加熱して水銀を蒸発させて金だけを残す方法です。この方法が日本にもたらされた時期は定かではありませんが、この環頭が製作された当時、日本にはこの技法が未だ導入されていなかったとすれば、製作地は朝鮮半島(百済か?)ということになります。
北牧野2号墳の環頭大刀は、金色に輝くこと、県内4例目という珍しさで逸品と言えるかもしれません。しかし、詳細な観察や科学分析を通して製作技法が判明し、技術史的位置付けも可能となりました。モノ珍しさに浮かれることなく、冷静に出土品に対峙する姿勢が調査員としては必要であることを再確認できたきっかけになった、私にとってはかけがえの無い逸品です。

(大崎康文)

《参考文献》
斧研川荒廃砂防事業に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書『北牧野古墳群』 滋賀県教育委員会・公益財団法人滋賀県文化財保護協会2003

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