オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 No.123 何が入っていたんだろう?-古墳時代の曲物-
「曲物」と書いて皆さんはどう読みますか?「くせもの」ですか?「まげもの」ですか? 今回紹介するのは「くせもの」ではなく、もちろん「まげもの」の方です。
曲物とは、ヒノキやスギなどの薄い板を筒状に曲げて、合わせ目をサクラなどの樹皮紐で綴じ、別材の底板に取り付けた容器のことです。現在でも、秋田県の大館曲げわっぱや長野県木曽地方のものが有名で、旅行に行くとお土産物として販売しているのをよく見ます。お弁当箱にいいなと思いますが、ちょっと高いのでいまだに買えていません。また、肉まんや焼売(しゅうまい)などを蒸す蒸籠(せいろ)も曲物の仲間です。遺跡から出土することも多く、楕円形や円形のものがあります。また、中世の遺跡などでは、井戸の底に設置する井筒としても用いられたものが出土したりします。
東近江市蛭子田遺跡では、弥生時代後期後半~古墳時代前期と古墳時代後期に流れていた川が幾筋もみつかっています。これらの川からは多くの土器や木製品が出土し、No.64でも木製の壺鐙を紹介しています。今回紹介する曲物も川の1つから出土しました。
この曲物は底板が上になってひっくり返った状態でしたが、ほぼ完全な形で残っています。だいたい遺跡から出土する容器として用いられた曲物は「底板だけ」ということがほとんどで、側板と底板がくっついたままで出土することは極めてまれです。蛭子田遺跡では、ほかにも底板だけはいくつも出土していますが、側板がくっついているのはこれだけです。樹皮による側板の綴じや、側板と底板の結合綴じも、欠けているところも多少ありますが極めて良好です。みなさん「ふ~ん」と思うかもしれませんが、ここまで状態のよいものはめったに無いんですよ。もしかしたら古墳時代のものとしてはこれだけかも。マニアックかもしれませんが、けっこう貴重なものなのですよ。大きさは、底板の長さ54.6cm・幅27.0cmで、両側にミミと呼ばれる突起がついています。高さは15.5cmです。
さてここで気になるのが、何が入っていたんだろうということです。大きいので弁当箱ではないでしょう。発掘現場から出てきた時に、いちおう中の土も持ち帰って洗浄してみたのですが、残念なことに土しかありませんでした。それもそのはず、川のなかでひっくり返っていたのですから、中身はとうになくなっています。なので、中身については想像をたくましくするほかないようです。食べ物?糸? 聞くところによると、曲物は便器として使用されることもあったそうです。さあ何が入っていたのか。それは今後の課題ということで。
この曲物や木製壺鐙が掲載される報告書が、平成26年3月に刊行されました。書名は『蛭子田遺跡2』です。くわしいことについてはこちらの報告書をご覧下さい。なお、『蛭子田遺跡1』も同時に刊行しました。また、毎年夏冬の2回、滋賀県立安土城考古博物館内の整理室で「あの遺跡は今!!」と題して整理調査の成果を公開していますが、次回開催のPart18において蛭子田遺跡から出土した木製品の展示・解説、さらには報告会を行いました。(内田 保之)