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調査員のおすすめの逸品 No.131 またしてもライフワークになってしまうのか!? ―北山古墳の短甲―
北山古墳は、長浜市(旧虎姫町)の虎御前山(とらごぜやま)の中腹にある古墳です。平成8年、虎御前山にある教育キャンプ場を整備するために発掘調査を行いました。虎御前山には未調査の古墳群が数多くあるとともに、姉川の合戦時、織田軍の砦が築かれた場所でもあります。そのため、古墳の多くは、砦をつくるさいに墳丘が削平・造成されています。今でも山中にみられる多くの古墳のなかには、墳頂部などが平らに削られているものもめずらしくありません。
さて、北山古墳はキャンプ場内の南端にある古墳で、現状の姿を見るかぎり、「前方後円墳」のかたちをしています。発掘調査の結果、木棺直葬(墓穴に木の棺桶を直接埋める葬法)を主体部とする古墳であることが分かりました。棺の中に遺体は残っていませんでした。しかし、遺体の胸のあたりには鏡が、腰のあたりには鉄剣が、足元のあたりには鉄刀子(ナイフ)が、頭の上のあたりには短甲(戦国時代でいう鎧〔よろい〕です)が納められていました。これらの副葬品の中で注目されるのは鏡ですが、それについては、また稿を改めて紹介します。
今回紹介します短甲も珍しいものです。どこが珍しいかというと、他の古墳から出土する短甲とは形などがおおきく異なっている点です。短甲は主に5世紀代の古墳から出土することが多く時期によって鉄板を革で綴じるものから、鉄のリベット(鋲)でかしめるものへという作り方の変化はあるものの、おおまかな形は決まっています。これをわれわれは、「定形化した短甲」とよんでいます。
この定形化した短甲は、後胴(背中側)に大きめの丸い板が付き、腰のあたりがやや括れたプロポーションです。一方、北山古墳の短甲の場合、後胴の丸い板がなく、腰の括れもない、いわば寸胴鍋のようなプロポーションです。このプロポーションは、定形化する前の4世紀代の短甲と似ています。作り方は横矧板鋲留の技法(横長の鉄板をリベットでかしめる作り方)であり、短甲の作り方としては新しい技法です。つまり、形は古いけれども、作り方は新しい短甲、ということになります。
この短甲の系譜がどこにあるのでしょうか。報告書では、横矧板鋲留という技法に注目して、5世紀代と判断しましたが、出土した鏡は4世紀代の古墳から出土しても違和感ないものであり、私の中ではいま一つ決着がついていません。またしてもライフワークが一つ増えてしまいそうな遺跡との出会いでした。
(重田 勉)
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