オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 No.2 発掘調査の便利グッズ ―「おたま」と「ワイパー」―
私たちの仕事の中心は、発掘調査です。暑さや寒さに見舞われながら、限られた予算と時間の中で効率的に調査を進めるためには「弘法筆を選ばず」よりも「鬼に金棒」。適した道具や便利な道具があれば、積極的に活用します。
だから私たちは、ホームセンターに行った時や100円ショップに行った時など、ついつい調査に利用できそうなものに目が向かってしまいます。今回は、そんな地味な努力(?)から「金棒」として取り入れられた意外な「一押しの逸品」を紹介したいと思います。
1.おたま
おたまと言えばもちろん、味噌汁やおでんの汁をすくったりするアレです。おたまを発掘調査で使うと言うと、よく「遺構にたまった水をすくい出すときに使うんですね」と言われます。確かにそういう使い方もできますが、それならむしろ柄杓やスポンジの方が早い。では何に使うのかといえば、「ピットの掘削」です。
ピットとは、建物の柱穴などをはじめとする「穴状の遺構」です。小さなピットを掘る時には、掘り崩した土を捨てるのに一苦労。狭くて、移植ゴテでは土がうまくすくえないのです。移植ゴテの先を折り曲げて使うこともありますが、こんな時に「おたま」が活躍します。ピットに差し込んで、穴の底や壁面を削りながら土を上げると…狙いどおりにすっきり掘削!ちなみにアルミ製のものは柔らかくて曲がってしまうので、ステンレス製のしっかりしたものを使っています。
2.ワイパー
タイルなどに水を撒いて掃除した後、排水溝へ水を押したり寄せたりしていく「ワイパー」という道具が、ホームセンターの掃除用具コーナーにあります。発掘調査における清掃というのは、普通の掃除とは異なり、「地面をきれいに削って、誰も踏んでいない面を出すこと」です。だから、本来こういう「こすりつける」ような使い方をする道具は使われません。けれど、これは「水を寄せる」という点で大変有効なのです。
雨が降った翌日や、水が湧く地域での調査では、毎日の水抜きが大変で、水と格闘しています。深くたまっていれば水中ポンプで水を抜きますし、ピットなど狭い範囲にたまっているなら柄杓やスポンジが有効です。困るのは、広い範囲に浅~く水が広がっているとき。ポンプは使えないし、スポンジでは間に合いません。そんなときに、この「ワイパー」をグランドを整地するトンボのように使い、水を寄せ、柄杓などですくっていくのです。
どうということもないアイデアの一つですが、私たち滋賀県文化財保護協会の調査にこのワイパーが導入されたのはほんの10年ほど前のこと。当時嘱託職員だったH君が、近江八幡の現場に「ホームセンターで買ってきました」とこのワイパーを持ち込んできました。最初は「こんなの何に使うんだよ」と思ったのですが、いざ使ってみたらこれが便利!以来このワイパー、滋賀県文化財保護協会の一部の職員の間では、「ワイパー」ではなく彼の名で呼ばれているとか…。
(阿刀弘史)