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調査員のおすすめの逸品 №333《滋賀をてらした珠玉の逸品⑩》中世の村のくらしがよみがえるー守山市横江遺跡の輸入磁器ー
鎌倉時代から室町時代にかけて、中国産の輸入陶磁器が、日本国内に広く流通していました。今回は、横江遺跡から出土した、中国産の輸入磁器を紹介します。
守山市西南部に位置する横江(よこえ)遺跡(守山市横江)からは、北に境川(さかいがわ)、南に海道(かいどう)川が流れる川に挟まれた中州上に造られた村の跡が見つかっています。滋賀県文化財保護協会が、昭和58年度から昭和62年度まで5年間にわたり発掘調査を行いました。平安時代後期(11世紀末)〜室町時代前期頃(14世紀)まで長期間続いた村をまるごと発見できたことから、発見当時はたいへん注目を集めたようです。
村の中央部には、土壇状に土を盛り上げている一辺約40m四方の屋敷地が見られました。屋敷地の中から、白磁の香炉(こうろ)・水滴(すいてき)・仏花瓶(ぶっかへい:仏壇に花を供えるための花瓶)、青磁の合子(ごうす:蓋のついた容器)など、当時としては高級品であったと考えられる品々が数多く見つかったことから、村の中心的な役割を果たしていた有力者が住んでいたと考えられています。写真2の青磁碗は、この屋敷地内から出土したもので、12世紀中頃~後半頃に、中国の浙江(せっこう)省の窯で焼かれました。釉薬の色は、光沢のある透明度の高い淡い青緑色で、胎土(焼物の原材料の土)は少し灰色に近い白色です。内面には、豊かさと子孫繁栄を象徴する吉祥文である蓮が小刀で描かれています。中国で焼かれた青磁は、この青磁が焼かれた頃の宋代(960~1279)のものが最高の品質であるとされています。
また、村の北東端で検出した屋敷地からは、地面に長さ1.9m・幅0.86mの長方形の穴を掘り、その中に遺体を埋葬した土坑墓が1基見つかっています。写真3の白磁碗は、土坑墓内にお供えされていたもののうちの一つです。11世紀後半〜12世紀前半頃に、中国河北(かほく)省の定窯(ていよう)で焼かれたものです。不純物を取り除いた白い胎土に、透明な釉薬が掛けられた磁器を白磁といいます。定窯で焼成された白磁は、象牙のように美しいといわれていました。
横江遺跡から出土した輸入磁器は、生産地の中国を船に乗せられて出発し、古代以来の伝統をもつ港である博多に集積されました。博多で行先ごとに選別された後は、気候が安定し波の穏やかな瀬戸内地方を通過し、琵琶湖や河川を通じて横江遺跡に到着しました。個人で旅をする機会が少なかった当時、こうして遠方から運ばれてきた美しく・質の高い輸入磁器は、人々に異国へのあこがれを抱かせる品々であったと考えられます。
(田中咲子)
〈参考文献〉
◎「横江遺跡発掘調査報告書Ⅰ」 滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会 1987年
◎「横江遺跡発掘調査報告書Ⅱ」 滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会 1990年
◇◇横江遺跡の輸入陶磁器は、2022(R.4)年夏から秋の当協会の展示『滋賀をてらした珠玉の逸品-スコップと歩んだ発掘50年史-』で滋賀県埋蔵文化財センター1Fロビーにて展示されます。会期:7月23日(土)~11月18日(金)(土日祝休館・7/23~9/4の期間は無休)。ぜひ見に来てください。