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調査員のおすすめの逸品140 木製品の復元品
遺跡から出土する考古遺物は、ほとんどの場合破損しています。特に木製品は、もともとの素材が有機物であるために非常にもろくなっていて、油断するとあっというまに変形したり崩壊したりしてしまいます。そういった事態を防ぎ、さらに保存や展示が可能になるようにするために、「保存処理」という化学処理が行われます。これはごく簡単に言えば、木製品にふくまれる水分を別の物質が溶け込んだ水溶液と置き換え、その物質が支えることで水分が蒸発した際に生じる組織の変形を抑える、というものです。
この保存処理技術によって、木製品の研究はずいぶんやりやすくなりました。けれど、解決できない問題も残りました。それは、「本来の使い心地はどうだったのか」ということ。保存処理をすると、どうしても重さや質感が変化します。けれど木製品が道具であるなら、使い心地は重要です。特に木製品の場合は、「樹種」という要素があります。なぜこの形のこの道具にはこの木が使われているのか、ということです。鍬・鋤といった土を掘る道具は、95%以上の割合でアカガシ亜属で作られています。竪杵(ウサギが月でお餅つきしている、棒状の杵)は、弥生時代中ごろにはアカガシ亜属で作られていましたが、弥生時代後期になるとツバキを使うようになります。丸木弓はイヌガヤという木で作りました。なぜこの木でなければならないのだろう?そこを検討するために有効なのが、「復元品」なのです。
木製品の復元品は、オリジナルと同じ木材を使って、同じ形に作っています。こうやって作った復元品を作ったり持ったりして初めてわかることが、実にたくさんあります。
例えば鍬。復元品を作って、現在の鍬と同じ長さの柄に着けてみました。ところがこれでは、刃先がうまく地面に刺さりません。どうやら、もっと柄が短かったようです。また、出土するアカガシ亜属はブヨブヨで非常にもろいのですが、本来の状態ならば堅くて重く、地面にしっかり刺さる強さを持っていました。それから、鍬に取り付ける「泥除け」と呼ばれる装置があります。本連載「No.47 謎の丸鍬の正体-中兵庫遺跡出土泥除け-」でも紹介された、弥生~古墳時代に特徴的なパーツですが、これも復元品を作ってみると、思った以上にがっちりと固定される、ということがわかりました。琴のような、いわゆる「道具」ではないものでも、復元品を作って鳴らしてみると、音量や響き方などの情報が得られます。
このようにとても有効な木製品の復元品ですが、製作は大変です。今回ご紹介している復元品は、木工が得意な補助員さんが作ってくださったものですが、材料の入手には非常に苦労しました。また、どうせやるなら製作過程から当時の工具で実験すればさらにいろいろわかるでしょうが、なかなかそこまでやれないのも現実です。他の博物館では、復元木製品で田植えから収穫まで行う実験もやっておられます。こういうのも楽しそうですよね。
(阿刀弘史)
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