オススメの逸品
調査員のオススメの逸品 第240回 小石丸 多賀町大瀧神社に宿る「犬」
滋賀県文化財保護協会では、昨年度(2017年)より、多賀町の依頼を受けて歴史文化遺産(文化財)を資源として、町作りに活かすための事業を行っています。その中で出会ったのが「小石丸」です。小石丸は多賀町大瀧にある大瀧神社の縁起に登場する犬です。
縁起では「昔、犬上川の上流に人に禍をなす大蛇が住み着き、人々は大変困っていた。そこで、稲依別という若者が、愛犬小石丸を連れて大蛇退治に出かけた。幾日も山中を探し回ったが大蛇に出会えない。疲れて稲依別は松の大木の根もとで眠りこけてしまった。すると小石丸が激しく泣き叫ぶ。稲依別は小石丸をなだめるが、泣きやまない。怒った稲依別は刀で小石丸の首を刎ねてしまった。すると小石丸の首は松の梢に飛び上がり、何者かと戦う気配がする。やがて大蛇の喉に小石丸の首がかみついたまま川に落ち、流れていった。大蛇が梢から稲依別を狙っていたのに気付いた小石丸が、主に危険を知らせるため泣き叫んでいたのだ。稲依別は、非常に悔い、小石丸を丁重に葬った。そして小石丸を祀ったのが大瀧神社の摂社犬上神社である」
2018年は戌年ですので、この縁起を元に戌年の守り神として大瀧神社を売り出すことにしました。しかし、小石丸が殺されてしまうのでは救いがありません。そこで、小石丸が死なないバージョンの縁起を造り、これを地元にお示ししたところ、「儂等の知ってる話は小石丸は殺されることになってるンや!」と、けんもほろろにけなされてしまい、却下。殺されるバージョンでポスター、チラシを作成しました。しかし、戌年で売ることには地元も乗り気で、なんと毎月戌の日に犬の祈祷を受け付ける、というオプションまで付けてくれました。
結果、地元の人しか行かない大瀧神社に他府県からも愛犬を連れてお参りに来る人が大勢現れたのです。犬の祈祷料三千円。絵馬七百円。御札三百円。現在(2018年8月)百頭ほどの犬がご祈祷を受けたそうです。無収入神社が半年あまりで50万円ほどを稼いだことになります。それも、小石丸のおかげです。
これから、小石丸をねたにした事業を続けていきますが、やはり殺されるのは可愛そう。そこで、「小石丸には嫁犬が居た。稲依別が悄然と帰宅すると、小石丸にうり二つの子犬が出迎えに走り出て来た。留守の間に子犬が生まれたのだ。この子犬たちが小石丸の代わりに多賀を護っていく。」これなら、地元の人も許してくれるのでは・・・・。文化財保護協会が産んだ小石丸の子供達の活躍にご期待下さい。