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調査員のオススメの逸品 第243回 割られた土器の謎

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東近江市下羽田遺跡の調査に従事している時、 ふと土器を見ると、周囲が打ち欠かれている須恵器に目が止りました。その後、白磁などの輸入陶磁にもそのような現象があるため、興味を持っていました。

打ち欠きのある白磁(底)
打ち欠きのある白磁(底)
打ち欠きのある白磁(内面)
打ち欠きのある白磁(内面)

その翌年の調査で、一昨年にこの地を試掘調査した時から気になっていた黒色土上面の拳大以下の小礫がどうも自然にたまったものではなく、人工的に敷かれたあるいは捨てられた礫である可能性が強くなりました。そこで、その礫が出はじめる上面で、小型の園芸用の移植ゴテで掘り始めました。

そうするうちに発掘に参加した作業員さんが、ビニールハウスのパイプのいらいないものをカットして、小礫の間を掘るための道具を作ってきてくれました。これらを駆使し、小礫の石敷き面を検出過程で、多くの土器の破片が出土しました。それらの土器を見ていると周囲が打ち欠かれている須恵器が目に留まりました。恐ろしいことにそういう目で土器を眺めるとこれもあれも打ち欠かれているように思えてきました。少し冷静になって土器を観察し、自然の破損では起きにくい割れ方のものを識別しましたが、奈良時代の終わりから平安時代の初めの須恵器に意図的な割られた方をしている土器が多いことを確認しました。

これらの土器の多くが石敷き面の上面で見つかったため、謎の石敷きと合わせて、何らかの祭りで土器を破損したのではないかと考えました。調査が終了して、他の遺跡の洗浄中の土器を見る時、土器を意図的に割られた観点からチェックする癖がつき、他の遺跡でも奈良・平安時代に割られた土器があることを知りました。そこで、石敷き遺構のない遺跡からも出土していることから、祭りのために割られたものではないかもしれないと思い直しました。

打ち欠きのある須恵器(横から)
打ち欠きのある須恵器(横から)
打ち欠きのある須恵器(内面)
打ち欠きのある須恵器(内面)

その後、いろいろと調べると奈良時代から平安時代には、硯の代わりに須恵器を転用して硯に使う転用硯や砥石の代わりに使われたものなどが、須恵器を打ち欠いて再利用するため、これらに使うための打ち欠かれた土器を一定量保有していた可能性があるという研究成果を読み、「なるほど」と思いました。

しかしながら、下羽田遺跡では、中世の白磁などにも割られた土器があり、それだけで解決できないとも考えました。割られた土器はどういう意味をもつのか、再利用のための保管品なのか、邪魔なので、ごみとして細かく割って捨てるためなのか、何らかの儀礼に使ったのか、これらすべての複合が遺跡の中で区別がつかないようになっているのか謎が深まるばかりです。

割られた土器は、私を悩まし、私をあざ笑うように、ここの遺跡でも、あそこの遺跡でも出土しています。こういったことから下羽田遺跡の土器に関わらず、割られた土器は、私にとって謎の逸品なのです。

中村健二
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