オススメの逸品
調査員オススメの逸品 第201回「琵琶湖文化館の展覧会ポスター」
昭和36年(1961)に開館した琵琶湖文化館は、平成32年(2020)に大津市瀬田にオープン予定の新たな美術館へ、収蔵品とともにこれまで今まで果たしてきた役割・機能を引き継ぐこととなっており、現在は移転のための準備事業を進めています。この事業では、文化財など収蔵品の確認・整理作業のほか、図書や写真、展覧会記録の整理なども行っています。その中でワタクシが見つけた『オススメの逸品』。それは、琵琶湖文化館が開催してきた過去の「展覧会のポスター」です。これらは、琵琶湖文化館が今までに取り組んできた展示活動を物語る大切な博物館資料であり、開館以来、55年間のあゆみに他なりません。今回は歴代ポスターたちを、そのほんの一部ではありますが、皆さんに紹介させていただきたいと思います。どうぞお付き合いくださいませ。
どうですか皆さん?!このポスターの潔さ!必要最小限の情報のみ!
このポスターは、琵琶湖文化館が開館した昭和36年(1961)に、初めて開催された特別展「近江襖絵展」のものです。大きさは縦384mm×横541mmとやや小さめで、電車の車内広告(B3)よりも少し大きいくらい。色付きの下地に、[タイトル][開催期間][会場][入館料]といった情報(文字)のみが配置されています。このデザインは、現代から見ればとても簡易なものですが、開館を記念する初めての特別展に、地味過ぎず目立ち過ぎず、湖国の歴史と文化を広く紹介する滋賀県初の総合博物館としてふさわしい色を、と工夫を凝らした当時の職員さんのこだわりが伝わってくるようです。以降、写真印刷の技術の向上に伴い、実物がイメージされるようになり、格段に表現力が増していきます。
これらのポスターは、それぞれに大きさや厚み、質感が異なり、年代順に並べてみると、色彩や構図についてその当時の流行があることがわかります。ポスターといえども、当時の世相や雰囲気が映し出されていて、その変遷などは見ていても大変興味深いものです。
現在、琵琶湖文化館に保管されている展覧会ポスターは、各展覧会を担当する学芸員が趣向を凝らした、汗と涙のこだわりの『逸品』です。今の若い方には想像できないかもしれませんが、未だパソコンが普及していなかった時代には、鉛筆で下書きをし、写真や文字を切り貼りしてデザインを作り、素案として印刷業者に渡すということをしていました。現在ではパソコンを駆使し、「Illustrator(イラストレーター)」というグラフィックデザインソフトを使ってデザインに工夫を凝らしています。
展覧会ポスターは、「展覧会の開催」を「お知らせする」、言ってしまえばただの広告媒体にすぎません。ですが、現在のようにパソコンやインターネットが普及する以前の博物館活動の歴史を知る上で、とても貴重な歴史資料だと言えます。「そんな時代もあったね」といった懐かしさが、そのまま「歴史の重み」として感じられるのです。
琵琶湖文化館が歩んできた歴史を物語るこれらの「展覧会ポスター」が、新たな美術館へ収蔵品とともに引き継がれますように、大切に整理作業を進めていきたいと思います。
※琵琶湖文化館の前身である滋賀県立産業文化館(昭和23~36年)の展覧会ポスターの一部を、琵琶湖文化館のHPにて紹介しています。<詳しくはコチラ>