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様々な自作スコップ

オススメの逸品

調査員のおすすめの逸品 No.129 これぞ作業員さんの逸品! -自作スコップのその後-

守山市
様々な自作スコップ
様々な自作スコップ

今回はNo.45で紹介された、東森さんの自作スコップのその後についてお話ししたいと思います。私が2年近く担当してきた守山市金森西遺跡の発掘調査は、平成25年10月末をもって現地調査が完了しました。その調査で遺構掘削の主力として活躍したのが、自作スコップでした。
すでに紹介されているように、自作スコップとは、ビニールハウスの骨を切って先端をスコップ状に開いたお手製の道具です。私が金森西遺跡の調査を始めたときには、守山市の作業員さんの間ではすでに遺構掘削にはこの自作スコップを使うことが定着していて、初めて見る見慣れない道具で、なおかつ自作されていることが衝撃的でした。この頃には開発者である東森さん以外にも自作して使われている作業員さんもおられ、かなりの数が量産されていました。
また、筒状の骨部分に土が詰まらないように、空洞部分と同じサイズの木を詰めたものや、力が入りやすいように柄を少し湾曲させたもの、手の平で押す時に手が痛くならないようにゴムキャップを装着したものなど、使いやすいように工夫が加えられた様々なバリエーションが開発されていました。

自作スコップの先端、左端は通常用、その他はピット用
自作スコップの先端、左端は通常用、その他はピット用

さて、金森西遺跡では、幾条もの河川や溝の間に、竪穴住居や掘立柱建物からなる古墳時代前期の集落跡が見つかりました。この河川は小川くらいの規模でしたが、埋土には多量の土器が含まれていました。埋土は粘土質で、乾燥するとカチカチに、湿るとネチネチになるため、大きなスコップでどんどんと掘り進みたいところですが、勢いよく掘ると土器を破壊してしまう恐れがあります。一方、土器を取りこぼさないために小さな移植ゴテばかり使っていては、歯が立たないうえにスピードアップも図れません。そこで、自作スコップの程よい大きさと粘土質の土を掘るときの使い勝手の良さは、まさにうってつけだったのです。

ピットでの使用状況
ピットでの使用状況

また、どの発掘現場でも見つかることが多い遺構が小穴(ピット)ですが、その掘削に活躍した改良型自作スコップもあります。掘削した遺構の仕上げには手ガリを使うことが主流ですが、小穴の場合は柄が当たってしまい上手く削れないことがあります。そういったときにはNo.95で紹介されているリサイクルされた「チビガリ」も使うのですが、削った土を集めにくい、仕上げた壁面にチビガリのキズが残りやすいといった難点もあります。そこをクリアしたのが改良型自作スコップで、開いた先端をさらに折り曲げているのが特徴です。掘削や仕上げ時に、壁に沿って真上に引き上げることができるため、土がこぼれにくく、チビガリ特有の角のたったキズができにくいという利点があります。
調査中、作ってもらった自作スコップを紛失された作業員さんがおられました(その日の間に無事に見つかりましたが)。そのとき、「わしらの商売道具やし、今までずっと使ってきた道具やから愛着があるんです。」とおっしゃったことが印象的でした。道具に愛着を持ち、より良く工夫しようとする、前向きな姿勢でお仕事に臨んでくださっている人々に支えられ、我々は発掘調査をしているのだと改めて感じさせられました。まさに「作業員さんの逸品」といえるのが、自作スコップです。

(小林裕季)

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