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調査員のおすすめの逸品 No.132 変わらぬものを支える変わらぬ力「セメダインC」

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 セメダイン。おじさん世代にとって、とても懐かしい響きのある名前です。私が紅顔の美少年だった頃、夏祭りとお正月に、なけなしのお小遣いをはたいて、プラモデルを買うのが何よりの楽しみでした。零戦、メッサーシュミット、P-51、戦艦大和・・・。妙に写実的なイラストの描かれた紙箱を開けると、プラスチックのアームに付いた部品が出現。部品をアームからねじ切って、カッターでバリを削り、設計図通りに組み立てます。この時登場する必須アイテム。これがセメダインCです。
セメダインCは、セメダイン株式会社が販売する接着剤で、その歴史はとても古く、何と大正12年(1923)に、今村善治郎氏が外国製に負けない接着剤を造ろうと、膠をベースに造ったセメダインAが原形だそうです。セメダインという名前は、結合材の「セメント」と、力の単位を表す「ダイン」の合成語と言われています。そう言えば我が故郷(山形県新庄市)では「セメンダイン」と発音していた記憶があります。「セメントダイン」を本能的に感じ取っていたわけです。また、当時日本を席巻していたイギリス製の接着剤「メンダイン」を駆逐する「攻め出せメンダイン」と言う意味も込められていたとも言います。その後、セメダインAの弱点である耐水性と耐熱性の向上を目指し開発され、昭和13年(1938)に販売されたのが「セメダインC」です。
 高校生になるとプラモデルから卒業し、セメダインCの存在も忘れてしまいました。しかし、大学に入り発掘調査のアルバイトを始めた昭和51年(1976)、発掘調査事務所に、何とあの懐かしいセメダインCの姿がありました。しかも、子供の頃使っていた小さなチューブの10倍はありそうな巨大なチューブのセメダインCが。発掘現場でプラモデルを作って遊んでいるのか?そんなアホな?一体何に使うのだ?実は、出土した土器片同士を合わせて、元の形に近づけるための復元(接合)作業の必須アイテムとして、彼は発掘調査事務所に君臨していたのでした。
セメダインCを土器片の割れ面に薄く塗り(指で断面に均一に塗るのが技です)、少し乾かしてギュッと合わせ、暫くするときっちりくっついてくれます。くっつけた後「ゆがんだかな?」「失敗したかな?」と思っても心配無用。アセトンと言う薬品を少し染ませてあげると簡単に元に戻すことが出来ます。強すぎず、弱すぎず、やり直しもきく。まさに土器の接合作業にピッタシの接着剤です。発掘業界では「接合する」=「くっつける」=「セメダイン」で意味が通じます。例えば、土器が壊れてしまったときなど「セメダインではっといたらええやんか」とかるーく言ってしまいます。
 そして、私、発掘調査現場を離れ幾星霜。平成26年(2014)、埋蔵文化財整理調査の基地、滋賀県埋蔵文化財センターに戻ってきました。そこで目撃したのは、あのセメダインCの勇姿です。白髪が増え、めっきり年寄りじみた私に対し、あのパッケージそのまま、そして使われ方もそのまま。物事がめまぐるしく変化するこの現代社会で、何ら変わることなく現場に君臨し続けるセメダインC。変る事のない価値を持つ文化財の調査を支えるセメダインC。歴史と文化を過去から甦らせ、現代に活かし、そして未来に伝えるため、永く活躍して欲しい逸品です。
セメダイン株式会社様、日本の未来のため、この逸品を生産し続けられることをお願いします。

(大沼芳幸)

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