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オススメの逸品

調査員のおすすめの逸品 No.16 !頼れる逸品?-プラスチック・ボックス-

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私がこの機材を見ると、今まで調査してきた中で一番印象深い、砂防工事に伴う百済寺南川遺跡の現場を思い出す。遺跡は鈴鹿山系の中腹、標高360m~370mに立地し、麓の集落との比高差は100m以上はあった。

この林道の奥が調査地
この林道の奥が調査地

平成17年の秋、百済寺南川遺跡の調査担当として現地をはじめて見たとき、「どうしよう・・・(;∀;) (;´Д`)」と思った。現場への道は林道1本のみ。車1台がようやく通れる工事用道路。しかも斜面。すぐ横はV字谷の崖。平地の現場とは全く異なる条件であった。
通常、私たちは発掘調査を行うとき、コンテナハウスやプレハブを設置して調査事務所とし、そこに調査道具や測量機材などを置く。事務所の中で休憩や昼食とり、雨天のときは出土した遺物や実測した図面の整理などを行うこともある。でもこの現場はどうがんばってもプレハブは無理そうだ。コンテナハウスでさえ無理そうだ。当然ながらトイレも無理だろう。でも調査機材を濡らしたり汚したりするのは避けたいので、4輪駆動の公用車にすべての道具を積み込み、毎日現場へ行くことにした。それでも無理があった。調査期間は2ヶ月近くあるため、いつの間にやら物が増え、公用車にも入りきらなくなってきた。それでは調査機材の一部を現場に置いておくことにしようと考えた。しかし、もし機材が盗難にあったり、サルが持って行ってしまったり、土砂崩れで谷底まで落ちてしまっては困る。でも、必要になったものを気軽に買い物にいけるような場所ではないのだ。そこで購入したのがプラスチック・ボックスである。これは、ベランダや物置で灯油を保管するための箱であり、18リットルのポリタンクが3・4個入るほどの大きさがあり、調査機材類が余裕で入る。防水性もあるようだ。鍵をつける箇所もあり少し安心だ。これで公用車の中も少し広々した。おかげで車内で実測図面を広げて整理したり、雨で濡れた図面を干す場所もできた。
並んだプラスチックボックス 発掘調査としてはやや過酷な条件ながら、調査員・調査補助員・作業員はいつの間にかこの状況に慣れ、調査は順調に進んだ。調査の結果、弥生時代後期から古墳時代にかけての山間地の集落跡であることが明らかとなり、新聞やテレビなどでも取り上げられ、弥生時代の研究者からも大いに注目されるに至った。
調査はその年の12月に終了したが、撤収直前に大寒波が襲来し、遺跡が立地する山は雪に閉ざされた。雪解けを待って機材を撤収することとしたが、いつも気になっていた。一時的に雪が止んだとき、公用車に乗って機材の撤収に向かった。砂防工事の業者の方に制止されたものの、気になって無謀にも雪の林道を駆け上がっていった。が、途中で動けなくなり、危うく公用車もろとも崖下へ落ちそうになったため、仕方なく引き返さざるを得なかった。
結局撤収できたのは年の明けた2月であった。機材が入ったプラスチック・ボックスは12月のときと同じ場所にあった。蓋を開けると全く水に濡れていない機材類がそこにあった。ごくごく普通の移植ゴテや両刃鎌であったが、約2ヶ月の間、風雨にさらされることなく無事であったことに感動した。
私は今もこのとき入手した逸品?、プラスチック・ボックスを愛用している。

(重田 勉)

《参考文献》
滋賀県教育委員会・公益財団法人滋賀県文化財保護協会百済寺遺跡』2007

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